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俺が次に諳さんを見たのは、彼が延朴塔の展望台に立っているところだった」
このCRIMINAL CITYには望命くんらが所属する警察組織「プレベント」本部の塔とは別に、何年か前に新しくできた鉄塔が存在する。
正式名称は延朴塔。
望命くんの心が黒く染まり、眞人くんの脳に傷を作った場所。
全てが始まり、全てが終わったあの忌まわしい所。
靴や靴下を脱ぎ、螺旋階段の続く最上階に登り、カンカンと照る太陽に照らされた諳さん。
彼に見下された時の顔を、望命くんは忘れたことがないと言う。
そんな彼を引き止めるためにクレサイのみんなは階段を駆け上がった。
その場に、結鶴さんを残して。
「どうして結鶴さんを下に残したの?
別に上に連れて行っても良かったんじゃ……」
「あの場で結鶴さんを連れて行っちゃうと、諳さんをもっと刺激しちゃう気がして……。
でも、それも無駄だったよ。
俺たちの説得も、良心も届かなかった―――」
延朴塔には工場用の長い長い螺旋階段が一番上、つまり最上階まで続いている。
忘れていたか、気づかなかったのかのどちらかだとは思うが設置されてあるエレベーターを使わず、その螺旋階段を登って諳さんのいる最上階まで走っていった。
暑くて、息が苦しくて、続かなくて、それでも彼らは止まらなかった。
たった一人の少年を救う為に、彼らはその手を、足を止めない。
もう少しで諳さんのいる最上階だと言うその時、眞人くんは突然今までふにゃりと動かせていた足を急に加速させた。
諳さんが飛び降りようとしている所が眞人くんには見えたのだろう。
クレサイでも一番体力のない彼が、望命くんや冬李さんを飛び越えて諳さんの所へ全速力で向かって、落ちそうになった彼の腕を掴んだ―――。
眞人くんが諳さんの腕を掴んでいる間に、望命くん達も彼らのいる最上階へと辿り着いた。
そこで、説得を試みたらしい。
説得を試みたと聞いて、あぁ、この時の望命くんはまだ〝少年〟だったのだなと溜め息を吐く。
君にはまだ未来がある、とか、あんなネットの誹謗中傷気にしなくて良い、とか。
できる限り諳さんの傷を抉らず、眞人くんが耐えられるその限界まで彼は説得した。
でも、眞人くんが諳さんの重さに耐えきれず、一緒に落ちた。
死に際、彼が言った言葉がある。
「俺の所為だから仕方ないんだ。
胡琶達や大衆は関係ないから」
その一言は今も望命くんを縛り付けて放してはくれない―――。




