〈file4〉
「諳さんがクレインサーベイに来たのは朝方、まだ事務所を開く準備を三人でしていた頃だった。
明るくて元気で、でも何処か苦しそうな彼の顔を、俺は今尚憶えている」
明るくて元気で、何処か苦しそう、か。
昔の眞人くんに似ているな、何て思ってしまうのは僕が彼らを知らないからなのかな。
クレインサーベイへの依頼は「ある少年の無実を証明して欲しい」と言うもの。
そしてその少年が君島涼路。
君島さんと諳さんは中学校からの同級生だったそうで、望命くんはその依頼を引き受けた。
無実の証明は、犯罪の証明よりも難しいと言うのに。
深く考えず彼は引き受けた―――。
ここで一つ、疑問が浮かんだ人もいるだろう。
〝無実を証明して欲しい〟と探偵に頼むには、その少年が何らかの罪を着せられている事が前提としてあるのだ。
なら、君島さんの犯した罪とは何なのか。
君島さんの犯した罪は殺人。
それも、この街にある包丁研ぎ屋から包丁を盗み、自身の彼女をその包丁で刺して殺害したと言う話しだ。
が、実際はその彼女を殺した犯人は通り魔と別にいて、君島さんではない。
彼女が刺された路地裏は人通りが少なく、誰も彼女が刺された所を目撃していない。
そして、君島さんは彼女が刺された当時のアリバイがなかった。
これ以上わかりやすいシナリオはないだろう。
その時君島さんは殺意を否定しなかったけれど、その事についてはクレインサーベイも調べていたから間違いないはず。
その包丁研ぎ屋から君島さんの指紋がついた包丁が出てきたのも、彼の家の包丁だったから。
「でも警察は捜査せず、決めつけで君島さんを実刑に……?
少年事件にしては少し重い判決だと思いますけど……」
「そうね。でも、善良な市民はそれを、厳罰を望んだわ。
そして、判決は実刑。どうしてだって諳も嘆いていたの」
「捜査するのが遅かったんだ。
その事件が起きた直後、捜査していれば……」
「それは違うわ。
胡琶くんたちの所為じゃない。世間の、彼らのやった事よ」
君島さんの判決が下された後なら、その事件をいくら捜査して、証拠を見つけたとしても彼の罪は消えたりしない。
それに、君島さん自身が殺意を否定せず、黙秘している。
クレインサーベイに出来ることはもう、ここまで。
諳さんに依頼を達成できなかった事を望命くんが謝罪すれば彼はこう言ったそうだ。
「『依頼は継続させてほしい。捜査はできなくても、世間にそうじゃないって証明しなきゃいけないから』って⋯⋯。
そんな事しても、諳さんが傷つくだけなのに⋯⋯でも、その時の俺も信じていたんだ。
世間が、彼らが変わってくれると―――」




