〈file3〉
事件が起きたのは三年前のある昼下がりだった。
僕はもちろんコルリスにいたし、望命くんに聞いただけだから、その場の状況や事細かな内容は知らない。
けれど、覚えている。
あの嫌な耳鳴りが僕の脳内に響いてから数時間後、僕の端末に掛かってきた望命くんからの電話。
端末の向こうで声を震わす望命くんも、ピッピッピッ、と病室内に鳴り響く病院特有のモニター音も、全部この脳に、この耳に焼き付いている。
「三年前の今日。私の弟はね、亡くなったの」
「諳さんの事は、今でも良く憶えています。
明るくて、騒がしかったから、眞人が少し萎縮しちゃって……」
「まだ18だった……。三年前の私と同じ様に、彼らを……胡琶くん達を頼って、ね」
風原 諳。
その名前には聞き覚えがあった。
三年前、この事件の最中にこの街の鉄塔から飛び降りて自殺……した筈の少年の名だ。
そして眞人くんは、彼を助けようと手を伸ばしたから記憶喪失になったのだ。
諳さんと違って眞人くんが亡くなるまでの事態にならなかったのは、垂直落下して行った諳さんと違い、飛び降りる際に体勢を崩して鉄塔の下に植えてあった草木に埋もれたから。
どうしてそんな事になったのか、順番に遡ってみよう。
まずは、望命くんの元に諳さんが来たあの頃に―――。




