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「この間はほんっっっっとうにありがとう!」
「いえ、本当に気にしないで下さい!それに今日もまた無料で頂いてますし……こちらこそ申し訳ないです……」
「そんな事はないよ。好きなものを好きなだけ食べて行きなさい」
「そう言うことや!どんどん頼むでー!え〜と、まず紅茶やろ?それからカルボナーラにカツサンドに、パンケーキ。そんで〜―――」
「ちょっ……こら、眞人は頼み過ぎなの〜!」
11月20日。
今日、雪を肩に乗せて来店してくれたのは菊池さんの件で手伝ってくれた常連客の探偵さんとその助手。
キッチンカウンターに座ったその人は僕が何度もお礼の言葉を並べるので、少し引いているような気がした。
今は朝と昼の間の時間帯なので客も少ないから良かったものの、聞かれていたら絶対に騒がれているだろうな、何て思いつつ、この時間に来店してくれた探偵さんと助手に感謝する。
「本当にごめんね、瀬凪くん。それに、今日もまた無料で……」
申し訳なさそうに眉を下げる彼に、僕はうんと明るい声で大丈夫だと肯定した。
「ううん、本当に気にしないで!それに、今日は特に」
望命くんは、ここクリミナルシティの治安維持組織『プレベント』に所属する探偵だ。
容姿端麗で、成績優秀、運動神経も抜群、おまけにお人好しときている。
この街じゃ珍しいくらいの、絵に描いたようなヒーローだ。
誰もがその才能を称える一方で、彼のIQ193というずば抜けた頭脳を、密かに恐れていることも、僕は知っている。
そして、その望命くんの横で目をキラキラさせ、メニュー表を見ながら一つ一つ料理名を上げていく関西弁の彼は、望命くんが営む探偵事務所・『クレインサーベイ』で助手として働いている樹羅眞人くん。
探偵と助手をしている2人にはいつも相談所の方で助けて貰っていて、こうして時々、コルリスのメニューを無料で提供させて貰って、借りを返していると言う訳だ。
僕の幼馴染でもある2人は、いつもここに来ては微笑ましいやりとりを見せてくれる。
何だか兄たちが出来たみたいで、僕の口角も自然と上がってしまう。
それからと言うもの、眞人くんは注文した料理を、望命くんはその後注文してくれたコーヒーとハムサンドを全て完食して『イマドキの男子中学生の胃のキャパは凄いね〜』何て言って笑ってコルリスの玄関先まで出て2人を見送る。
扉を開ければそこは雪国も同然。
道路も、向かいの一軒家もこのコルリスも、一面真っ白な粉雪が積もっており、そんな雪国にもまだ雪がしんしんと降り注いでいた。
来店時、望命くん達は肩に雪を乗せていたからもしかして降ってるのかな何て考えていたけれど、その考えは甘かった。
〝降っている〟どころではない。
〝積もっている〟のだ。
僕はもう一度望命くん達を店内に引き入れ、お客様用の傘を傘立てから取り出し一つ、手渡した。
望命くんは悪いよ、何て謙遜しているが、これで風邪を引かれては元も子もない。
少し強引だったが、僕の気持ちが伝わるように2人に傘を渡した。
今度は受け取ってくれて、本当に良かった。
「じゃあ、今日は本当にありがとう。凄く美味しかったし、絶対また食べに来るよ」
「新メニュー出したら、一番に食べさせてや!」
「うん!もちろん!」
「あ、瀬凪くん。次は女の子を連れて来るね」
「・・・え、?……えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」




