〈file2〉
僕がもう一度、扉を開けてどうぞ、と通る様に促すと望命くん達はありがとうと一言礼を添えてカフェの目の前の道路へと出た。
道路に出てすぐにお礼を言ってくれる望命くんは先程の服装とは異なり、可愛い茶色いコートと白くてふわふわのマフラーを着用しており、冬仕様になっている。
キャッキャとお礼を言ってくれた望命くんの横で、人懐っこい笑顔を向けてジェスチャーも付け、言い表す眞人くんも冬仕様であり、裾が長めの赤色のコートと、望命くんとお揃いだと言うマフラーと、耳に豹柄のイヤーマフを着用している。
眞人くんと望命くんが雪を丸めて遊んでいる間に僕は、望命くんの先程の発言に驚いてフリーズしてしまった。
「て、てて、店長ょょょょ〜!」
「こら、瀬凪くん。お店では走らない」
「あ、すみません……!ってそうじゃなくて!望命くん、次来る時はお、女の子を連れて来るそうなんです……!」
「女の子を……、?あの望命くんがかい!?」
「そうなんです!」
店先でフリーズしてしまった僕が次に気が付いた時には、もう2人がとっくに店を去った後だった。
ドアノブを勢い良く掴み、店長を呼びながらキッチンの方へ駆けて行く僕に店長はそう注意をして望命くん達が平らげた大量のお皿をスポンジで洗っていた。
僕が店内を走りながら店長に駆け寄るものだから、注意されてしまった。
そんな僕は店長の注意を聞き流し、先程望命くんから聞いた衝撃的な出来事を、戸惑いながらも完結に伝えた。
すると店長も僕同様驚いたようで、危うく石鹸まみれ皿をシンクに落とす、と言うギリギリのタイミングで僕が運よくキャッチして、何とかその場は終えた。
店長が皿洗いしている時に話しかけた僕にも非があると思い、詳細は店長が皿洗いを終えてからにしよう、そう決め込んで僕はカウンターのテーブルを払拭するため、カウンターに足を向ける。
「あの望命くんが女の子を、か……。探偵だからとか言って恋愛とか興味ないのかと思ってた……」
望命くんと僕は、幼馴染と言っても過言ではないくらい、付き合いが長い。
望命くんも幼い頃にこの街で起こった事件で父親を亡くしており、ここ、コルリスには望命くんの保護者とも言えるであろう、クレーンサーベイで助手をやっている夏阿冬李さんに連れられてやってきた。
確か当時の僕達の年齢は3歳。
まだ店長に拾われて2年経っただけの僕に、その時初めて「親友」が出来た。
その頃から僕は店長に仕込まれており、コルリスの看板 -息子- もしていたのだ。
元々は店長と冬李さんが古くからの知り合いで、その時も確か、何かの打ち合わせをするとか何とか言って2人で集まったらしい。
話す大人2人がバックヤードへ言った頃、2人きりになった子供2人はようやく話し始めた。
何せ望命くんも僕も昔は人見知りなもので、話し出すタイミングを見出だせなかったのだ。
そこで望命くんの性格を知った僕は、初めて誰かと友達になりたいと思えるようになっていて、心の何処かでほっ、と安堵していた。
という感じで、望命くんと僕はかなり古くからの知り合いだ。
何なら眞人くんよりも付き合いは長いかも、なんて。
「よくよく考えてみれば、あの頃の望命くん、泣き虫だったなぁ……。泣き虫のくせに、何でも好奇心旺盛で首突っ込んでいっちゃうし」
でも、そんな望命くんも今やこの街を守る〝正義のヒーロー〟
かっこよくて、優しくて、僕なんかじゃ届かない雲の上のような存在。
僕が拭き終わったカウンターテーブルに置いてあるメニュー表を元の位置に戻し、窓の外に視線を移すと、このCRIMINAL CITYを象徴する様に"プレベント本部の塔"、それからそんなプレベントと何らかの部隊との衝突があったから出来たと言われている"壊れた鉄塔"が覗かせる。
|CRIMINAL CITY《この都市》で起きた事件を解決するのはプレベントの探偵さん達。
そしてこの都市で起きた事件を隠蔽するのも、プレベントの職員だ。
それには理由があるらしいが、今は不明。
探偵や助手に拳銃を持たせる理由もそれと関与していると見て、まず間違いは無いだろう。
僕は、店長みたいに誰も彼も救って上げよう、何て気には到底なれそうにない。
この世界には「善」がいて、それを判断する「仲裁人」がいて。
そして、「悪」がいる。
全員を疑ってかかれとは言わない。
だが、人間は常に何事も慎重に判断して、善か悪か、味方か敵か。
それを見極めなければならないのだ。
―――@Day1.5『探偵と相談員』終幕―――