〈file11〉
店長に言われるがまま、僕らはここ、カフェ・コルリスの地下にある射撃場へと向かった。
そう、何故か、本当に何故かカフェであるコルリスの地下に射撃場が存在している。
まぁ、今となってはただの物置になってしまっているのだが。
産まれてすぐ、ここで過ごしているであろう僕にもその謎は未だに解けていない。
きっと、冬李さんがクレサイではない現役時代に使っていた場所なのだろうと、密かに思っている。
「ここか……。お〜い、眞人帰っt―――」
「くらえ、みこと〜!」
「うぇ、わぶっ……!」
「み、水……!?」
望命くんが地下の扉を開けた瞬間、ホースを構えた眞人くんが勢い良く水を望命くん目掛けて発射した。
望命くんを驚かせられた事が嬉しかったのか、にひひ、と笑っている眞人くんの後ろで、ホースに繋がった蛇口のレバーをきゅっ、と回している麗羽がいた。
艷やかでホコリ一つ付いていない長髪は、今は麗羽が持っていた黒の髪ゴムで一つにくくられている。
「2人で何してたの?」
「水浴びよ。眞人くんが暑い、暑いってうるさいから店長に頼んで、ホースを出してもらったの。
2人も浴びる?」
「浴びる〜!麗羽、カモン!」
顔に掛かった水を服で拭いながら、望命くんは麗羽にそう聞いた。
そう言えば麗羽って、僕や眞人くんの事はくん付けなのに、望命くんの事は何時まで経っても苗字にさん付けだ。
何か理由があるのかも知れない。
僕らに聞きながらもう一度レバーを握った麗羽は、僕がそう応えると、先程と変わらない体勢できゅっ、と回した。
「わぁ〜、冷たい!気持ち〜」
「もぅ、瀬凪くんも眞人も、店長が夕食を作ってくれてるのに、こんなにびちゃびちゃで良いの?」
「良いのよ。店長には許可とってあるから。
でも、風邪引かないためにカフェの冷房は消してもらってるけどね」
なら良いんですけど、と麗羽の言葉にそっと引いた望命くんが言葉にしようとした時、締め切った鉄の扉の向こうから、店長の僕らを呼ぶ声が聞こえた。
きっと、夕食が出来上がったのだろう。
「「「「今行きま〜す!」」」」
この日常を守るために、失わない様に、僕らは今日もこの街のヒーローになる。
僕らの声が初めて揃ったその時、夕焼けは少し開けられた窓から顔を覗かせていた―――。
―――『家出少女は突如目の前に現る』終幕―――




