〈file9〉
「すみません、瑠依さん。急遽こんな依頼頼んでしまって……。」
「良いの、良いの!私は望命くんの力になれるだけで、いや、会えるだけで嬉しいから!」
「よく言うぜ、長期の依頼から帰ったばっかだからもう依頼何て受けたくないぃ〜、とか散々帰り道で喚いてた癖に」
「黙れ、体力お化けが」
「温度差……」
ここはクレインサーベイの事務所玄関前。
宵の口、僕らはクレサイ事務所へ呼び出した瑠依ちゃん率いるクラスとヒアリングと皆さんと今回の事件について話し合っていた。
そう、望命くんが頼ったのは意外にも、瑠依ちゃんの事務所だったのだ。
あの家に戻れば、蓿李探偵とも鉢合わせる。
さすれば、あちらから見た事件の容疑者である依さんを、逮捕されるかも知れない。
それは、クレサイの解決にそぐわない結果になってしまう。
それだけは避けたい、そう考えた結果、瑠依ちゃんの事務所基、クラストヒアリングを頼る事にしたようだ。
まぁ、僕としてもクラストヒアリングを頼った事は正解だったと思う。
探偵である瑠依ちゃんは望命くんに良い意味で従順だし、助手の彼らは、瑠依ちゃんの結論に沿って事件を解決へと導く糧となる。
望命くんとしては、クレインサーベイとしてこの事件を解決する事、が理想だったんだろうけれど、それが出来ない以上、プレベントの規定として何処かの事務所に捜査の権限を譲り渡す事になる。
「あれ、望命、眞人いねぇのか?」
男にしては高い声、女にしては低い声の主は眞人くんから聞いていた、例の体力お化けの助手さんだった。
確か名前は……カイセイさん。
瑠依ちゃんの幼馴染で、同い年の男の子。
長く艷やかな茶髪、薄紅色の綺麗な瞳、アクロバットな助手にしては、日焼けを感じさせない薄色の肌、その容姿からは想像ができない荒っぽい口調。
僕も良く、男に見えない容姿だと言われることが多いが、カイセイさんの方が優美で麗しい。
「二週間前に暴漢に襲われて……今は家で安静にしてます」
「あぁ……、あれ眞人の事だったのか……」
「だから瀬凪くんを連れてきたの?」
「いえ、元々この事件の依頼は、瀬凪くんの元に届いていた物なので……。
着いてきたのは俺の方です」
「なるほどね。じゃあ、取り敢えず依さんは家の事務所で一時的に保護させて貰うね」
「はい、宜しくお願いします」




