〈file8〉
「謎を明らかって……もしかして望命……」
「えぇ、もうわかりました。〝裁きの時間〟です」
依さんを見る目が確信に変わる時、彼はいつもの決め台詞を僕らの前で告げた。
この事件には最初から謎が多すぎた。
どうして依さんがあの家から、しかも夜に逃げ出さなければならなかったのか。
どうしてあそこに蓿李探偵が来ていたのか。
蓿李探偵の本質は見抜けないままだったが、前者の謎は、依さんの身体に付いた傷や痣を見て何となく想像出来た。
まぁ、依さんの傷を見て大体の事情は察したから、だから望命くんはこの事件に眞人くんを巻き込みたくなかったのかな、とか余計な事も考えてしまったけれど。
「―――お母さんに虐待されてるんだよね?」
「っ……。みこちゃん、何で……」
「わかるよ。俺の幼馴染も、そうだったから―――。
最も、俺と出会う前にその子の両親は亡くなっちゃってたけど」
望命くんが微笑みながら優しく問い掛けると、依さんは弁解もせず、望命くんが出した結論をあっさりと認めた。
眞人くんの過去は、望命くんしか知らない。
当時、小学校でひとりぼっちだった眞人くんに手を差し伸べたのが、彼だけだったから。
両親に虐待された挙げ句、その両親はある火事で亡くなり、眞人くんは施設へ。
虐待されている事を周知している近隣住民でさえ、彼を救う為に立ち上がってはくれなかった。
だから、眞人くんは〝大人〟と言う物を信頼していない。
助けてくれたのは、この醜く汚い世界を知っている大人ではなく、まだ未熟で未成熟な同い年の男の子の方だったのだから。
が、例外的に冬李さんには懐いた。
眞人くんが、年長者である冬李さんにも敢えて生意気な口を利くのは、信頼と言うより甘えに近い心理にある。
その甘えを許すのは、冬李さんの目に、眞人くんが望命くんよりもなお幼く映るからだろう。
いつだって、眩しいのは〝特別〟な子供ではない。
〝特別〟に寄り添える力を持つ、明るさの方なのだから。
「―――でもどうするの?このまま依さんをあの家に、あの母親の元に帰せば、彼女は……」
「っ……!嫌だ……あの家には帰りたくない……っ!
みこちゃんお願い……、助けて……っ」
「大丈夫だ。望命なら、必ず良い解決をしてくれる」
「うん、それについては俺にも考えがある。
後少し、ここで待とう―――」




