〈file5〉
「瀬凪くんは、〝家出した子が一番最初に行く所〟って知ってる?」
「?警察とかじゃないの?」
「うん、俺もそう思ってた。でもね、違うんだって。
眞人が言うには、だけど」
「違う?」
「〝その子にとって一番安心できる場所〟に行くらしいよ。
例えば……信頼できる探偵の事務所、とか」
「!」
望命くんの唐突な質問に疑問を抱きながらも僕が答えると、彼は微笑みながら首を横に振った。
「眞人が言うには」に突っ込まなかったのは敢えてだ。
彼の事情は、僕も幾許かは知っている。
眞人くんも昔、恐らく今の彼女と同じ状況……いや、多分もっと悲惨な状況にいただろう。
家出した子供が一番最初に行く所、か。
僕には皆目見当もつかない。
一番安心できる場所……穏やかな下町だろうと、ここが犯罪都市である事に変わりはない。
そんな街で安心できる場所と言えば、知り合いの探偵がいる事務所、位なのでは無いだろうか。
自分で自分の事を信頼できる探偵と言うのか、と思いつつ、僕は足を止めていた彼が走り出す前に通りを左に曲がった。
今はまだ春。
だが、今日は真夏日のように暑かった。
日がジリジリと僕らを照らし、服の襟にじわりと水滴が染み込む。
「今事務所には?」
「誰もいないと思うよ。今日は休みだし、冬李さんも自分の家に帰っているはず」
「じゃあ、やっぱり扉の前にいるのかな?」
「……まだ、可能性の話しだ。
事務所に必ず来ているとは限らない。でも……」
「もし、僕らの推測通り、昨日の夜から扉の前にいるとすれば……」




