〈file4〉
「ムカつくぅーーっ!何なのあの人たち……!」
「会ったらいつも眞人の事をバカにして来るんだ。
下位事務所なのに自分たちより人望がある眞人に嫉妬してるんだよ、きっと」
「立派な大人が嫉妬なんて……」
「さ、蓿李探偵達の事は放って置いて、俺達は近隣に聞き込みに行くよ」
「聞き込み?」
蓿李探偵がその場からいなくなった後、堪忍袋の緒が切れた僕は、声を張り上げて文句を吐露した。
あの横暴な態度に煽る姿勢、終いには望命くんの事を世間知らずなガキ呼ばわりまでして……。
この薄汚い世の中を早い段階で知らなければいけなくなったのは、望命くん本人だと言うのに。
パンッパンッ、と制服に付着したほこりを払い終えると、望命くんはゆっくりと歩き慣れた塗装されている道路を歩き始めた。
僕もそんな彼に並行して歩きながら、今回の依頼概要をもう一度2人で、確認し直すことにした。
「一昨日ここ、萬街4丁目で少女・黒羽 依が夜間失踪。
依頼人は母親の黒羽真那。
近隣からの聞き込みは済んでいないっと、これくらいかな?」
「ねぇ、気になってたんだけど、望命くんはその依さんと知り合いなの?」
「そうだね。街を見回ることが多いから、何度か話した事はあるよ」
クレインサーベイは他事務所とは違い地域密着型。
その為、望命くんは毎日夕方になると街を見回って、困っている人がいないか入念にチェックしているらしい。
年の為に街の顔ぶれは把握しておきたいらしい。
今回失踪した依さんとも望命くんは親しいようだ。
毎日あちこちに傷を作っていた一つ年下の依さんを望命くんも何かと気にかけていたらしい。
その後、僕らは近隣に住む清月さん、湯足さん宅に聞き込みに行った。
依さんが失踪したのは先ほども話した通り深夜。
もうその時間には夢の中にいた清月さん、湯足さんからは情報を得られなかった。
続いて、依さんの家の左隣のお宅、小野さんに聞き込みに行くことにした。
確か小野さん宅にも一人、高校生の女の子がいたと聞いた気がする。
「小野」と書かれた表札の赤茶色に塗装された綺麗な家の前で、望命くんと同じ背の高さにあったネズミ色のチャイムを彼は鳴らした。
「はーい。あれ、胡琶くん?どうしたの?」
「小野さん、すみません。
昨晩、右隣に住む黒羽依さんを見かけませんでしたか?」
「黒羽さん?あ、見掛けたよ。
昨日の深夜一時に私、家族と旅行から帰ってきてね、家に入ろうとしたら黒羽さんが走っていく姿が見えたの」
「!本当ですか?」
「うん、私の家を横切って左の方に走って行ったと思う」
「有益な情報、ありがとうございます!」
チャイムに応えた後、真っ白な扉を開けて出て来たのは現在高校生の小野 恵さんだった。
彼女は、望命くんの問いにも疑惑を抱かず、すらすらと指を指して応えてくれる。
小野さんの話しだと、依さんは深夜1時頃に家から飛び出して、この道の繋がる通りに出たと言う事になる。
望命くんは僕に目配せをしてから、小野さんに礼を言って、その場を後にした。
だが、ここからが重要だ。
その通りに出た後、依さんが何処へ消えたのか。
僕に依頼が来たくらいだ。
警察だって、周辺の捜索はしているはず。
なら、見つからないのはおかしい。
誘拐されたか、或いは……。
こう言うときの僕の感はよく当たるから自分で自分が嫌になる。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせても、胸の鼓動は速くなるばかりで僕に余裕を与えてはくれない。
僕自身を落ち着かせる為に、ゆっくり、ゆっくりと深呼吸をする。
「?瀬凪くん?」
「……いや、何でもないよ。急ごう、時間がないんだ」
「……うん」




