〈file3〉
「え、いやですけど……」
「この鳥のエンブレムを見ても、そんな事言える?」
「かもめのエンブレム……。
シングルホルダーに入ったのは本当だったみたいですね」
「もちろん。あ、でも、君たちはまだ最下位、だったね」
蓿李探偵の唐突な命令に、先ほどよりも顔を歪めて即答する望命くん。
蓿李探偵が自身の懐からかもめのエンブレムが描かれたバッジを取り出し、見せびらかす。
そうか、シーガルは訳すとかもめ。
だからかもめのエンブレム。
と言うか、この人は本当に探偵なのか?
僕らの事を執拗に煽ってくるし、自慢ばかりしてくる。
この二人は、探偵としての器が違いすぎる。
平凡で凡庸で悪がなく、つまらないとまで評される胡琶望命と、後ろの影から闇が見え隠れする蓿李燕路。
でも、この探偵の言うことはここまでなら全て正しい。
クレインサーベイは今もまだ最下位。
それに比べて、ナレッジシーガルは上位。
探偵の格が違いすぎる。
このままここで僕らが対抗したとて、オチはきまっている。
僕が望命くんの腕を引いて、僕らの目の前にある家に入ろうとしたその時、見事彼は望命くんの地雷を踏んだ。
「……それが何か?」
「いや、やっぱ足手まといになってるんだって思って。
彼の……樹羅眞人の存在が♪」
「……っ!」
「望命くんっ……!」
いつも穏やかで、喧嘩が嫌いで、人一倍優しい望命くんが、彼に、蓿李探偵に拳を振り上げた。
彼は望命くんと同じプレベントの制服を靡かせながら、望命くんの拳をさらりと後退りして避ける。
望命くんの反応を見るに、この人はいつもこうなのだろう。
眞人くんがクレサイにとって足手まとい?
考えた事すらないくらい、彼はクレサイに必要だ。
例え運動音痴であろうと、望命くんの健康を管理しているのも、依頼を分析しているのも、初めての依頼人にとって息が詰まる場でもある探偵事務所を和ませているのも、全部全部眞人くんだ。
明るくて、優しくて、真面目で素直な彼に惹かれる人は少なくない。
そして、そんな眞人くんの隣にはいつも望命くんがいる。
互いを信頼しているからこそ、自らの事すら眞人くんに任せてしまう。
それは望命くんなりの甘えなのだ。
そんな事、二人を見てきた僕が一番良く知っている。
荒ぶる望命くんを制してから、前にいる蓿李探偵にも目を向けた。
気遣ったわけじゃない。
また挑発をして来ないか、見張っていただけだ。
「わぁ〜、怖い怖い!そんなに怒らないでよ〜。
本当の事言っただけなんだからさ☆
あ、事実だったから怒っちゃったのか〜、ごめんね胡琶望命く〜ん!
でも、君だってバカじゃないんだからわかってるでしょ?
樹羅眞人はクレインサーベイには要らない。
ただ着いてきてるだけの運動音痴のバカだって!」
「……これ以上、この場で俺の助手への中傷を続ける気なら、あなたの事務所事訴えますよ……?」
「ふふっ、やっぱり君面白いね!
夏阿冬李の事いじっても何も反論してこなかったくせに、樹羅眞人の事になると理性が抑えられないんだ〜♪
それってやっぱり……《《自分の所為》》だから?」
「……っ!」
自分の所為、か。
望命くんの反応を見て、それは図星なんだと僕にもわかった。
蓿李探偵は散々眞人くんの悪口を言った後、望命くんの反応を見て笑ってから、僕らに耳打ちした。
そう、望命くんだけじゃなく、なぜか僕にも。
「使い駒になってくれないんなら仕方ないや〜。
もう諦めるよ。
その代わり……とっとと失せろ、胡琶望命。
世間を知らないガキには公園がお似合いだ」
「ちょっ……!」
「さ、事件解決、解決〜」




