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「No.8……シングルオフィシャルホルダー……」
「良く知っているね。榮倉瀬凪」
「……貴方の様な探偵が、この家に一体何のようですか?」
「プレベント経由での依頼だよ。
この家の子供が失踪した挙げ句母親を刺して逃走したから捕まえろ、と言うね。
この街は僕の管轄ではなかったけど、クレインサーベイがどうしても休みだと言うので引き受けたんだ」
三白眼の蒼い瞳、何かと上から目線なその口調。
プレベントでは毎月行われる「ライセンス更新」で各事務所の解決件数と、その解決に掛かった時間、手間、経緯全てを総合して与えられた称号により順位が決まる。
望命くん所属する「クレインサーベイ」は小さな困り事やトリビアルケースばかりなので〝No.87〟の最下位。
そして、最下位もいれば順位が高い事務所と言うのも存在するわけで。
望命くんが以前話していた時は確か、10位以上、プレベント内では「シングルオフィシャルホルダー」と呼ばれると聞いた。
そのシングルオフィシャルホルダーだと、特別な銀色に光る各事務所をイメージした鳥のエンブレムが描かれたバッジが付与されて、下位事務所を〝好きな様に〟出来るんだとか。
もちろん好きな様に、と言うのは捜査の中でだけで、他の所ではその権力を行使出来ない様に本部から釘を刺れている。
シングルオフィシャルホルダーの中でも悪い噂が絶えない事務所が、今僕らの目の前にいる蓿李探偵の事務所だ。
No.8「ナレッジシーガル」。
マインドハックの探偵・蓿李燕路。
悪い噂、と言っても「ヤクザと関わりがある」とか、「人を殺した」とかそう言うヤバい噂じゃ無い。
「残念ながら俺は今、クレサイの探偵じゃありませんよ」
「相談所・コルリスの一員として僕らはここに来ました。
蓿李探偵、通して頂けますか?」
「コルリス……聞いたことがないけど?
所長は許しているのか?」
「事務所使いが荒い」
と言う噂だ。
使いと言うのは先ほども説明したシングルオフィシャルホルダーに入る全ての事務所に与えられる権利の事。
自分が上位に上がるためならば、犯罪以外のどんな手段も厭わない探偵、と耳にした。
そうか、あの事務所がナレッジシーガルか。
納得できる。
探偵は薄汚い笑顔の男だし、後ろにいる二人の助手は笑顔を貫いているが、何処か闇が拭えない。
〝マインドハック〟の探偵か。
マインドハック……要は人間の精神を操る技術だ。
この探偵に掛かれば、人の心を読むなんて容易いのかも知れない。
まぁ、どちらの事務所もお世辞にも、華やかとは言えないが。
「コルリス……そう、コルリスね」
「?何です?」
「胡琶望命、いや、コルリス。
今回はナレッジシーガルの使い駒になって貰うよ」
「!???」
「……は、」




