〈file4〉
僕が慌てて追いかけたからか、店長に貰った新品と言っていいほど綺麗な靴の紐が解けてしまった為、その場にしゃがみ込み、元のリボンに結び直す。
目線を靴の紐に向けつつ、菊池さんを見失わないようにチラチラと何回も顔を上げて見るを繰り返した。
数分後、ようやく靴を結び直せた僕は急いで菊池さんの後を追いかける。
荒い息の音、真冬だと言うのに汗が首筋に流れる感触。
全ての情報が僕の脳に届く前に、菊池さんが歩いて行った近くの辺りで女の人の叫び声が聞こえた。
甲高い、女の人の声が。
悲鳴を聞いた瞬間、僕の心臓は本当に止まっていた気がする。
「っ……、菊池さんッ……!」
頬が冷たくて、凍てつくような寒い日なのに、汗を額に垂らして全速力で声のする当たりへと走る。
やっぱり僕じゃだめだったんだ。
店長みたいな風格や体力も無くて、わざわざ相談に来てくれた依頼人さんを危険な目に合わせてしまった。
自分の失態を悔めば悔やむほど、涙が込み上げてくる。
そんな僕の横を大柄な男性が僕よりも全然速いスピードで通り抜けていった。
その人は、僕よりも遅く来たはずなのに、僕に安心しろとでも言うようにその大きな背中を見せて悲鳴が聞こえた方へと走り去っていく。
僕は悲鳴の正体の女性……菊池さんの存在が見えた瞬間、安堵したと同時に、驚いて腰が抜けそうになった。
見たことのある顔の男性、基店長が片手で菊池さんの両腕を締め付けて、もう片方の片手で菊池さんが所持していた果物ナイフを持って、先程美容室の前で腕時計を何度も何度も見ていた大柄な男を庇うようにしていたと言う光景に。
「ちょっ……店長……!何やってるんですか!菊池さんはこの男に襲われて……!」
「あぁ、知っている。知っているが、真相はそうじゃないんだ、瀬凪くん」
「え……、」




