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「そうだね、真相を話そうか。まずは……菊池さんの正体から」
そう言って店長が話し出したのは、予想外だったが、紛れも無く、この事件の真実の話しだった。
菊池さんの正体はストーカーや空き巣の前科持ち。
そしてこの店長に庇われている大柄な男は名森さんと言う大学生だそうだ。
僕はてっきり社会人だと思っていたので、彼の顔を二度見してしまう。
僕達の知り合いの探偵に調べてもらった所、この名森さんは、常日頃、菊池さんからストーカー被害に遭っており、何度かプレベントや警察署の方に相談していたらしい。
つまり、僕たちが昨日、菊地さんに聞いた内容と真実は真逆だった訳で。
今日も菊池さんの行く所に名森さんがいたのも、元々は名森さんが行く予定だった所に、菊池さんがわざわざ予定を合わせて行っていたのだという。
「お前が悪いんだ……!お前が……私を一番に選ばないから!」
「……もう観念して捕まりなさい。近くに警察と、顔見知りの探偵もいる。一緒に、来てくれるね?」
「クソッ………、クソぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙!」
あの綺麗な顔と上品な恰好からは想像もできない様なドス黒い声を上げ、菊池さんは店長と一緒に警察官の元へと歩いて行った。
僕は周りの人達に騒いでしまった謝罪をして、その場を後にしようとしたのだが、名森さんがいつまでもその場に突っ立っていた為、爪先を伸ばせばぎりぎり届く肩をトントンっと軽快なリズムに乗せて叩いた。
「ごめんな、すぐ助けられなくて。てか、大丈夫だった?菊池さん、刃物持ってたし、危なかったんじゃ……」
「えぇ。確かに危なかったです。でも、店長さんがすぐに助けてくれましたし、瀬凪さんも駆け付けてくださったので……」
「え、何で僕の名前知ってんの?」
「前に一度、コルリスにお邪魔したことがあるもので……。最近は忙しくて行けていなかったのですが……」
振り返ってくれた名森さんに手を合わせ、謝罪をする僕。
あまりにも僕が何度も謝るからか、名森さんはあわあわと焦っていて、その様子が大柄な体格とは全く異なるもので、凄く可笑しく、笑ってしまった。
ははは……、と苦笑いをしながらコルリスの看板メニューであるホットケーキが一番お気に入りだと言ってくれた為、僕は今日のお詫びに次来店してくれた時は奢ってやると言うと、僕の手を握って凄く喜んでくれた。
取り敢えず僕は名森さんの事を警察官に説明した後、コルリスの上の階にある自室へと帰路に着いた。
「ふぅ~……今日は散々だったなぁ……。あ、そうだ、あの人手伝ってくれたって店長言ってたな……。後で御礼のメールしとかなきゃ……」
帰ってきて早々、ベッドへダイブする僕を先にお風呂へ入りなさいと説教する人物は、今日はいない。
手伝ってくれた"探偵さん"へと連絡するべく、端末を開いたが、もう瞼が落ち始めていた為、御礼の連絡は急いでいないからと、明日の自分に任せることにする。
「菊池さんのあの言葉……。分かりたくないのに、分かる気がする……」
『お前が……私を一番に選ばないから!』
僕も、誰かの一番になりたくて藻掻いているのかもしれない。
僕を捨てた母さんや父さんの一番になれなかったから。
店長の一番はお客さんと相談者様。
なら、誰の一番が僕なのだろうか。
僕の一番は……誰なのだろうか。
どうすれば、誰かの一番になれるのだろうか。
そこまで考えた僕はハッとして、寝返りをうつ。
ベッドの上にあるコーヒーを持ったテディベアをぎゅっ、と握り締め、僕は限界だった瞼を落とした。
―――@day1『奇妙な依頼人』終幕―――