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―――この世の中、誰かに恨みを買われず生きていくなど不可能だ。
それも探偵や助手ともなれば。
その覚悟を背負って、彼らは自分達の事務所を持っている。
この街で苦しむ人を救い続けるために。
だが、時にはこうして取り返しのつかない事も起きるのだ。
2年前の、春と同じで―――。
「いや〜、ほんっまにびびったで〜!
一人で待っとったら後ろから鉄バット持った何人かの男に襲われたんやから〜」
「笑い事じゃないでしょ!
眞人、肋2本と、胸骨も折ってるんだから!
あの時俺の言う通り事務所の中で待っててくれれば、襲われてなかったのかも知れないんだよ!」
「まぁまぁ、望命。
眞人が無事で良かったじゃないか」
「〜〜〜っ!そうですけど……っ!」
眞人くんを肩で支えながら来店した望命くんは、眞人くんを冬李さんが座っている隣のカウンター席に座らせて、にこやかに笑いながらも心配の意を示す冬李さんとは対照的にカウンターテーブルをその固くなった大きい手を握りしめて叩く。
2人にコーヒーを、もう1人にはおかわりを淹れて僕は3人の前に音を鳴らしながら差し出した。
何故眞人くんが骨を折るまでの事態になったかと言えば、昨日の夜、事務所に資料を取りに戻った望命くんに付き添い、事務所の外で待っていた所、数人の男に鉄バットで殴られてしまった様だ。
資料探しに時間が掛かった望命くんが事務所の扉を開けるまでの数十分、殴られ続けた眞人くんは、肋骨2本と胸骨まで折られてしまった様で完治までは1年程かかるらしい。
昨日は眞人くんを病院に連れていき、もう夜も遅かった為に1日入院して今日、帰ってきた様だ。
説明してくれた望命くんは眞人くんに腰に手を当ててプンスコと怒っている。
僕はそんな2人の様子に疑問を感じ、一つ、問いを投げかけた。
「それで?どうしてコルリスに?部屋上がらないの?」
「あ、そうそう。瀬凪くん、店長。
今日から2日間、眞人の事お願いできない?」




