〈file8〉
「はぁ〜、これで事件解決、依頼達成!
良かったな〜、みこと!」
「そう……だね」
「?何や、しんみりして。あ、わかった!
とーりおらんし、俺とお前でData書かなあかんからめんどいんやろ?
大丈夫や、みことならすぐに―――」
「そうじゃなくて……」
眞人くんがいつも通り、望命くんに光に満ちたその笑顔を向けるなり、望命くんは彼の言葉を遮って眉を下げてチラリ、と僕に視線を向けて来た。
何か言いたい事があれば直接言えば良いのに、と僕が彼にそう思うのも望命くんが普段から思った事は口にしてくれるからなのだろう。
これも、ある意味彼に対する甘えなのかも知れない。
僕には望命くんの心情はわからない。
心を読めるわけじゃないんだ、全てを完璧に当てる何て不可能だろう。
でも、今彼が何かと葛藤している事は見ていて分かる。
考えるときの彼はいつも心細そうな顔を隠さない。
そんな望命くんに眞人くんは首を傾げている。
「さ、眞人くん、望命くん、帰ろ〜。
事件解決のお礼にコーヒー一杯とディナーメニューどれか一つなら奢るよ、店長が」
「ほんまか!?よっしゃ〜!
ほんならみこと、はよ帰って着替えてコルリス行くで〜!」
「うん、ありがとう。……瀬凪くんっ……!」
「!」
望命くんが僕の名を目を細めながら呼んだ。
僕の実母が付けた「翠」じゃなく、店長が付けてくれた「瀬凪」と言う名前を。
この時、僕は腑に落ちた。
先程まで彼が考えていた何かはこれなのだと。
望命くんは僕の名前をどう呼ぶかで悩んでくれていたのだ。
そう、僕の名前は榮倉瀬凪。
店長の子供で、カフェ・コルリスで働いている未熟なヒーロー見習い。
望命くんにとって、僕は「榮倉瀬凪」であり、「池浦翠」では無い。
その事に僕が気付いた時、何だか胸が熱くなった気がした。
「ふふ、どういたしまして!」
望命くんのお礼に僕も笑顔で言葉を返す。
店長の過去を知れても、僕の本当の名前を知っても、僕の出生を知っても、この関係が変わることは無い。
僕にとって、昔も今も、望命くんと眞人くんはかけがえの無い幼馴染で、自慢の親友なのだから―――。
―――『またねからさよならへ』終幕―――




