〈file3〉
「むむむむ……」
菊池さんが来てから1日経った12月10日。
真冬の凍てつく空気の中、僕は1人、街に繰り出していた。
今日、僕は店長に頼まれた菊池さんの後を朝から付け、ストーカーが手を出したらすぐに駆け付けられる様にしている。
端から見たら僕が菊池さんのストーカーに見えるだろうけれど……。
疑われたとしてもしょうがないよね。
今日、菊池さんはお仕事はおやすみ。
髪を切りに行ったり、エステをしに行ったり、美容dayだそうだ。
さすがに僕もお店の中までは入れないから、お店の外で菊池さんを待つ予定。
そんな事を考えながら菊池さんがお気に入りの美容室の扉の前で待っていると、僕と同じ様に美容室の扉の前でキラキラと金色に光るいかにもお金持ちが持っていそうな時計を、1分に1回程度見ながら、何かを待っている大柄の男性がいた。
その男は何処かで見たことがあるような、無いような、既視感のある顔だった。
カランカラン!
「ありがとうございました!」
鐘の音が僕の耳に届いた時にはもう、菊池さんは美容室から出て来て、細く長い一本道を歩き出していた。
僕が慌てて追いかけたからか、店長に貰った新品と言っていいほど綺麗な靴の紐が解けてしまった為、その場にしゃがみ込み、元のリボンに結び直す。
目線を靴の紐に向けつつ、菊池さんを見失わないようにチラチラと何回も顔を上げて見るを繰り返した。
数分後、ようやく靴を結び直せた僕は急いで菊池さんの後を追いかける。
荒い息の音、真冬だと言うのに汗が首筋に流れる感触。
全ての情報が僕の脳に届く前に、菊池さんが歩いて行った近くの辺りで女の人の叫び声が聞こえた。
甲高い、女の人の声が。
「っ……、菊池さんッ……!」
頬が冷たくて、凍てつくような寒い日なのに、汗を額に垂らして全速力で声のする当たりへと走る。
やっぱり僕じゃだめだったんだ。
店長みたいな風格や体力も無くて、わざわざ相談に来てくれた依頼人さんを危険な目に合わせてしまった。
自分の失態を悔めば悔やむほど、涙が込み上げてくる。
そんな僕の横を大柄な男性が僕よりも全然速いスピードで通り抜けていった。
その人は、僕よりも遅く来たはずなのに、僕に安心しろとでも言うようにその大きな背中を見せて悲鳴が聞こえた方へと走り去っていく。
僕は悲鳴の正体の女性……菊池さんの存在が見えた瞬間、安堵したと同時に、驚いて腰が抜けそうになった。
大柄な男、基店長が片手で菊池さんの両腕を締め付けて、もう片方の片手で菊池さんが所持していた果物ナイフを持って、先程美容室の前で腕時計を何度も何度も見ていた大柄な男を庇うようにしていたと言う光景に。
「ちょっ……店長……!何やってるんですか!菊池さんはこの男に襲われて……!」
「あぁ、知っている。知っているが、真相はそうじゃないんだ、瀬凪くん」
「え……、」