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ヒーローになりたくて  作者: CANA.
@day6 - 過去と今【コルリス&クレサイ:trivial case】

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34/93

〈file2〉

―――8年前





「お前ん家、親いねぇんだろ?


で、育ての親はこーこーせーにぼーりょくふるって昔逮捕されたからお前とはもう関わるなって母さん、俺に言ってきたぜ?」



「……」



「ちっ!そのかっこーキモいんだよ!何か言いやがれ!」


「いた……っ」




当時、僕は同年代の子達と同じ小学校に通っていたごくごく普通の子供だった。


はずなのだが、入学から毎日、一部のクラスメイト達からの嫌がらせに苦しんでいた。

嫌がらせは物を壊される、隠されるだけには飽き足らず、今のように殴る蹴るなどの暴力や金品を盗まれた事だってある。


他のクラスメイト達はその子達と一緒になって何かをしてくると言う事は無かったけれど、助けてくれると言う事も、また無かった。

担任の先生に相談するも、聞く耳を持ってもらえず、見て見ぬふりをされたままだった。


店長には言えない。

店に置かして貰っている立場だと言うのに、これ以上迷惑は掛けられないと、子供ながらに思っていたのだ。


そんな状態が半年以上続いたある日、今日も今日とて嫌がらせを受けて心も身体も疲弊していた僕のもとに、〝彼〟が現れた。




「おい!嫌がらせ何てやめろよ!


みっともないぞ、お前ら!」



「げっ……眞人……。


お、お前には関係ねぇだろ!?どけよ!」



「は?あるに決まってるだろ、同学年だぞ。


弱い奴いじめて楽しいんなら、俺もいじめてみろよ!」


「ちっ……!もう行こうぜ!」




当時の眞人くんはまだ〝記憶〟もあって、僕や望命くん達と同じ標準語で喋っていたただの少年。

言い返せない、やり返せない僕を見ていじめっ子達は面白がっていた。


いじめっ子達にガンを飛ばしながら右腕を広げて僕の前に立つ眞人くんは、いつの日か見たテレビの中にいるような〝正義のヒーロー〟の様でカッコいいなと憧憬の念を抱いたことを今でも鮮明に覚えている。


その時が眞人くんと初めて出会った日、正式に自己紹介なんてことをしたのは望命くんに連れられて眞人くんがコルリスにやって来た時なのだが。






「―――俺、そん時そんなかっこよかったん?」



「うん。……変わったよね、僕も眞人くんも……この街も」



「………せやな」




店長が眞人くんにコーヒーを淹れている間、僕は眞人くんの隣に鎮座して、過去を思い返していた。

彼は……施設育ちな上、過去の事件で記憶を失くしていて、今もまだその記憶は戻っていない。


眞人くんの記憶が無くなったと望命くんから連絡があった時は全身の血の気がサーッと引いて、画面の向こうですすり泣く望命くんに言葉を返せなかった。


もう、この街は昔の様な静けさも、尊さも失っしまった。

今この街にあるのは、CRIMINAL CITYを象徴する〝プレベント本部の塔〟、それからそんなプレベントと何らかの部隊との衝突があったから出来たと言われている〝壊れた鉄塔〟だけ。


もう何も、残ってはいないのだ。




「……望命から聞いてるかもしれんけど、この間、|プレベントに所属しているうちのやつがえらいでかい騒ぎ起こしたんや。


そんで……何人もの関係ない人がようけ亡くなってもうた……」



「……また、あったんだね」



「でも、表向きには地下爆発事故っちゅう内容に偽装されとった。……プレベントは全部こうや。


事件は事故になるし、悲劇は美談になってまう。

それは……っ、許されへん事やろっ……。


俺らはこの街の人達を守らなあかんのに、何で奪ってまうんや……その人の人生を……その人の未来を……っ」




「悲劇は美談になる」

誰かがプレベントに放った言葉だ。

聞いた時、言い得て妙だと思った。


プレベントが出来た事は喜ばしい事なのだろう。

実際、プレベントのお陰……いや、プレベントに所属している探偵と助手のお陰で事件の発生件数は格段に減少したし、事件も直ぐに解決されるようになった。


……でも、その影でそのプレベントと言う権利を不法行為に使う人達も出て来ている。

眞人くんの言う通り、プレベントの人間が何か起こせば、その尻拭いをプレベントはする。

放っておけば良いものを、全部組織が揉み消してしまう。

失った人達や、そのご家族のことを何も考えていないんだ。


眞人くんや望命くん、冬李さんや瑠依ちゃんも、皆が力を合わせてこの街をより良いものにしようと努力しているのに、何故その努力をいとも簡単に踏みにじることが出来る?


腹が立つ。

不法行為に利用しているプレベントの人間も、それら全てを権力で揉み消してしまうプレベントと言う組織も、何もかも。




「……いっそ、失くなっちゃえばいいのにね。


プレベントって言う組織何か……」



「せやな、俺も思うわ。あの組織はいらん。

探偵がこの街におらなあかんねやったら、個人で事務所開いたらええだけや。


別に〝組織〟である必要はない。


でも、この街に住む誰かには必要とされてんねやろな、プレベントは」



「………だね」




プレベントが必要とされる一番の要因はおそらく「|CRIMINAL CITY《この街》の犯罪件数がどこの国よりも多いから」。

他国より小さい日本、それも大阪府と京都府の県境に位置する小さな都市だ。

それなのに、犯罪件数がどんなに広い国よりも多い。

それだけ、この街が憎しみや悲しみ、嫉妬何て醜い人間の感情で溢れているのだ。


プレベントを解体させるには、この街から犯罪を失くすこと。

それは不可能に近いだろう。

人の感情は、誰にもコントロール出来ない。

怒り、憎しみ、嫌悪、軽蔑。もちろんこれだけではない。

普段笑顔なあの人も、裏ではどう思っているのか計り知れない。

でも、だからこそ人は美しくいられるのだ。

表では普段と違う自分になる事が出来るから。


眞人くんが僕の意見に同意してしまうとプレベントを否定する事になる。

だが、彼には彼なりのプレベントへ思うことがあるのだろう。




「さ〜て!


今日も仕事頑張ろ〜っと!」



そんなプレベントを早く壊す為……では無いが、今日も僕は寄り添い続ける。

プレベントに拾われなかった、小さな相談者達を救う為に―――。





     ―――@Day4.5『過去と今』終幕―――

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