〈file1〉
「はぁ〜、午前中つっかれたぁ〜」
「………瀬凪くん」
「ん?どしたの、麗羽」
「瀬凪くんって……本当は女の子よね?」
「・・・え、?」
ホワイトクリスマスも正月も明けた2月8日。
コルリスも正月明けから繁盛していた為、ろくに休憩も出来ず夕焼けが差し込む4時にやっとのことでバックヤードの椅子へと座り込む。
店長から貰っていた賄を懐から取り出し、一口頬張る。
そんな僕の隣で僕と同じタイミングでバックヤードに入って来た麗羽に名前を呼ばれる。
一度頬張ったハムサンドを飲み込んでから、麗羽の言葉に反応すると、そう尋ねられた。
確かに僕の容姿は女に見えると良く言われる。
決して好きでこんな恰好をしているわけではない。
「え、どしたの麗羽?僕は男だよ?」
「じゃあどうして、そんな姿なの?」
「……あ、そっか。
麗羽には話したこと無かったっけ?」
「?」
「僕、本当の親に捨てられたんだぁ」
今全て麗羽に話してしまえば、彼女も巻き込む事になる。
それが良くない事だと言うことは分かっているが、このまま何も話さないと不自然になってしまうだろう。
僕は、麗羽に自分が捨て子だと言うことだけを話した。
知られたくない部分は端折って、端的に解りやすく。
この街の裏街道で捨てられていた事、そんな僕を店長が拾ってここまで育ててくれた事を。
麗羽は僕の話しを最初はいつも通りの無愛想面で傾聴していたのだが、だんだんと無愛想面からしかめっ面に変わっていく姿が見てて傑作だった。
「―――って事で、僕は店長に拾われて今ここにいるの」
「……なるほど……じゃa―――」
『瀬凪くーん!眞人くんが来てくれたよ〜!』
「え、眞人くん!?
1人でなんて珍し〜、今行きま〜す!」
麗羽に全て話し終えると、彼女は俯いたまま何も言わなかった。
うん、その方が良い。
何か言われる事より、黙られる方がやりやすい。
そして、そんな麗羽が口を開いたと思えば、バックヤードの外である厨房から店長の言葉で麗羽の弱々しい声は遮られた。
普段、眞人くんは望命くんと2人で来ることが多かったので、1人でと言う事は望命くんに何かを買ってきて貰うよう頼まれたのか、彼の意思なのか。
そんな事を考えながら僕はバックヤードのドアノブに手を掛ける。
すると、扉を開けた先から陽気な男の子の声が聞こえた。
「いや〜、瀬凪くんには頭上がらんわ〜!
あの後、幽霊見ることも無くなったし、店長もほんまありがと〜!」
「………何してるの、眞人くん……」
「お、瀬凪くん!
「深夜に屋上で踊り続ける女の幽霊」の事件、解決してくれてほんまありがと〜な!
あの後、事件続きでお礼言いに来られんくてごめんなぁ」
扉を開けた先に広がった何とも言えない光景に、僕は繰り返し目を瞬きさせる。
昼間から街の見回りをしていた店長の知り合いと言うこの街の街内会のご老人たちと眞人くんで、机を囲んでいたのだ。
僕が来たことに気が付いた眞人くんは、ゆっくりと僕に近づいて来た。
そして、この間の麗羽の事件のお礼を言われた。
僕がそんな、そんな、と手を振ると、眞人くんは嬉しそうに微笑む。
いつも望命くんの横にいるから、こうして一対一で話すと言うのは初めて出会った頃以来だろうか。
大人びて丁寧な望命くんと、元気ではつらつとしていて何処か少し幼い眞人くん。
2人は性格も態度も真逆なのに今も尚仲が良いのは根の部分が似ていて、二人とも〝相手の個性〟をお互いに認め合い、過去の事を理解し合っているからなのだろう。
「そうだ」
「ん?」
「僕たちが初めて出会ったあの日から、今日でちょうど8年なんだよね―――」




