〈file2〉
「俺のは……みことや瀬凪くん達とやった雪合戦の写真とか〜、花火の写真とか〜、女の子と〝デート〟した時の写真とか〜、まぁよーけ載せてんで〜!」
「……眞人、女の子のアカウントばっかふぉろーしててずるい……!
俺のも今すぐにふぉろーして!」
「えぇけど……そんな急にがっつくなや……!」
カフェの端に蹲ってブツブツと独り言を呟いている冬李さんに目もくれず、僕達は眞人くんのアカウントに目を通していた。
すると、眞人くんがフォローしている可愛いお姉さん達を見つけた望命くんの目が、1秒も無いくらい、本当にほんの一瞬だけ暗くなる。
僕はどうしたのかな、程度にしか考えていなかったが、望命くんは眞人くんにぷくーっと頬を膨らませながら詰め寄る。
望命くんは一見、可愛いお姉さんと関わっている眞人くんに嫉妬しているのかと思いきや、違っていた。
女好きな眞人くんが可愛いお姉さんと関わっている事に嫉妬していたのだ。
自分だけを見て欲しい。
他の奴は君の瞳に、視界に入らなくていい、そんな眼差しで眞人くんを見つめる。
僕はこれまでも望命くんが眞人くんに、眞人くんが望命くんに嫉妬する所をみたことがあるので、この時は特に気にせず二人のやり取りを見ていた。
「わぁ〜い!ありがとう、眞人」
「……ほんま、しゃーない奴やなぁ、みことは」
彼らは、青春と言うものを経験したことがない。
その機会がありながらも、望命くんの特異体質によって潰されてしまったのだ。
同年代の子と関わった事がない2人は最初、瑠依ちゃんと話すのも苦痛だったはずだ。
みんなに、いや、大人に歩幅を合わせて、周りが求める様な〝良い子〟をちゃんと演じて、大人の、闇の世界に幼い彼らはどんどん染まって行って。
そんな2人は早く〝大人〟になる事しか出来なかったのだ。
プレベントの探偵、助手として、街のみんなや、大人から期待を背負わされて、何かあれば、自分の所為だと消せない傷を抱えて、15歳じゃ抱えきれないものに押し潰されながら、彼らは今を生きている。
周りが求める様な仕事をこなしていれば、大人がそれを褒めてくれるから、自分を、自分だけを見てほしくて。
この街で探偵や助手をやっていれば、街の人や依頼人さんが自分達を必要としてくれるから、この職種に沼ってしまった。
このCRIMINAL CITYと言う街で生き延びて行くには、そう言う戦法しか通用しない。
必要として欲しい、何でも良いから自分を使って欲しい、そう心の中で叫び続けながら、雑誌やインタビューの仕事にも繰り出して、主役の子を立てるように自分は存在感を消す。
そう、それはまるで黒子の様に。
「冬李さんも相互ふぉろー?しましょうよ〜!」
「……あぁ、良いぞ、当たり前だ」
「やったぁ〜!」
「ぐ……っ、今日の望命ノートにSNSを交換したと書いておくか」
「え、何やそれこわっ」
必要として欲しい、その思いは、幼少の頃家族と過ごした望命くんよりも生まれた時から施設で育った眞人くんの方が、ずっと強かったはずだ。
辛くても、耐えられなくても、今まで2人で支え合いながら生き延びて来たから、お互いがお互いの知らない内に依存していった。
それが、この2人の関係。
絶対的な信頼を寄せていても、一度自分の手元から放れると不安になるもの。
望命くんも、眞人くんも自分ではわかっているつもりなのに、どこかで張り詰めた糸がプツン、と切れちゃって、自分は必要無いのだと、この世にいなくていい存在なんだと、そう自分自身を納得させて、今までの努力を諦めで示す。
何故なら、その方法でしか前に進めない事を、他でもない2人自身が、よく知っているのだから。
俯いてブツブツと何かを言っている冬李さんに遠慮せず自身の端末を見せる望命くん。
いつでもパァーッと輝く太陽の様な望命くん。
存在感を消す事は、自分自身を否定しているのと同義。
辛くても、苦しくても、誰かに自分だけを見て欲しい、そんな思いが2人の強い執念を結んだ。
「そうだ望命、瀬凪くん。
ミソスタを始めるにあたり、注意しなければならない事がたくさんあるが、それらを知っているか?」
「「注意しないといけないこと?」」
「知らないのか……では、俺と眞人がネットリテラシーについて教えよう」
「だから何で俺も巻き込むねんッッ!」




