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―――これは、麗羽がコルリスに来てすぐの頃のお話し……。
「「じゃじゃーん!僕/俺、ミソスタ始めました!」」
「え、えぇぇぇぇ!?マジで!?みことと瀬凪くんが!?」
「望命、が……」
「「マジマジ」」
12月9日。
僕と望命くんは眞人くんと冬李さんに〝あること〟を報告する為、この極寒の中、コルリスへと呼び出した。
取り敢えず二人にコーヒーを出した後、望命くんとどう伝えるか打ち合わせし、息を合わせて報告した。
ミソスタ。通称ミソスタグラム。
ミソスタグラムとは、約1500年前に作られた写真や動画を投稿したり、他人の投稿を見たりすることがメインのSNSだ。
今まで眞人くんに誘われていたものの、SNS自体やっていなかった僕と望命くん。
今回初めてSNSに挑戦するきっかけとなったのは麗羽の
「SNSで宣伝したらお客さん増えるんじゃないですか?」
という一言。
SNSを活用すればお客さんがもっと増えるし、赤字の月を出さなくて済む……とお金の掛からない宣伝に妄想が膨らんだ僕は、望命くんに相談。
すると意外なことに、彼もミソスタをやれば色々なカフェの情報を入手出来ると言う点に目を引かれたのか、一緒にミソスタをやってくれることになり、今に至る。
「なるほどな……一瞬でも感動した俺がバカやったわ」
「ねね、眞人くんや冬李さんのも見せてよ!
どんなのやってるの?」
「俺のは構わないが……全く面白くないぞ?」
「今後の参考に是非!」
「参考て……そんなええもんちゃうやろ……」
僕達の「ミソスタ始めました報告」で何故か感動して涙を流していた眞人くんと冬李さんは何故ミソスタを始めたのか、その経緯を僕らから聞くと涙は引っ込んだようで、僕達のお願いに二つ返事で応える。
今まで僕と眞人くん以外、〝友達〟と言うものにろくに関わってこなかった望命くんが、自ら外交的になった事が2人には余程嬉しかったのだろう。
それこそ、泣く程には。
今、お客さんは望命くん達だけなので、僕もキッチンから飛び出し、冬李さんと眞人くんに見せて欲しいと頼む。
すると冬李さんは端末を起動させ、ミソスタのマイページを開いた。
そこには、今までクレサイが解決した事件や事故の詳細が事細かに書かれていた。
事件が起きた場所や日時、どんな被害があったのか、依頼人はどれくらいの歳の子なのか、事件に関する事が注意書きと共にアップされていて、僕達は絶句した。
「す、凄いですね……あの事件達の詳細を一つ一つ……」
「いや、凄いのは望命だ。
俺が書いたのは全て望命の事件ファイルに収めてある言葉だけだからね。
注意書きは俺が書いたけど」
「……この叔父ありのこの甥か……。
蛙の子は蛙のお手本みたい……子じゃ無いけど」
僕達が3人で冬李さんの端末を覗き込む様にして遡って見ると、昔は今よりももっともっと丁寧に長文が綴られていた。
これ全てが望命くんが書いた物なのだとしたら、何処まで真摯に依頼人と向き合っているのだろう……、僕らには計り知れない事だ。
「冬李さん、これ何?」
「あぁ、これか?
これは鍵アカウントと言ってな、お互いにフォローしている相手としか見せられないアカウント何だ」
「へぇ……、見てみたいです!その鍵アカウント!」
「こ、これを……か……?別に見せてもいいが……」
「「………俺/望命くんの自慢話しばっか!!」」
「……本人に見られる何て……こうかいしょけいだ、おれはおわりだ……」
ゴニョゴニョと話す冬李さんに、望命くんの泣き演技は急所を獲たらしい。
顔を掌で覆いながらも僕達に見せてくれた冬李さんの非公開のアカウント、鍵アカウントには、文字数制限ギリギリまでビッシリと、望命くんの自慢話しで埋め尽くされていた。
家の甥が可愛いと、若くして探偵で凄いと、読み進めていくに連れ、望命くんの顔は事件現場で見る鮮血色その物の色をしていて、次第に声も発せなくなるほど、照れている事がわかりやすかった。
それから僕達は、見かねた店長に制止されるまで、冬李さんの自慢投稿を見進めた。
見れば見るほど、望命くんへの愛が溢れていて、1000件以上投稿されているそのアカウントに、興味が湧く。
が、店長に制止された為、次は眞人くんのアカウントを見せて貰うことになった。




