〈file2〉
カランカラン
「す、すみません……、今ここってやってたり……」
「いらっしゃいませ、相談者様。そちらのカウンター席に座ってお待ち下さい」
「……はい」
「当店自慢のコーヒーでございます。コーヒーのお代は頂か無いので、ご安心下さい」
「あ、ありがとうございます……」
「それで……今日はここに、どの様なご要件で?」
「……実は」
"Consultation center・colrisu"は訪れてくれた相談者様に良い状況になるように全力を尽くさせて頂く。
犯罪以外のどんな手を使ってでも。
僕達はいつでも、弱い人の味方だ。
この店はストレスや悩みのある人にしか見えない細工がされているらしく、僕は未だにその構造が理解出来ない。
控えめに開けられたそのドアの向こうにいたのは20代位の綺麗なロングヘアの女性。
僕は先程まで着けていたカフェのエプロン姿では無く、この相談所の制服を着用しており、それは店長も同じ。
僕が店長がいるキッチン側のカウンターに相談者様をご案内し、店長が淹れたコーヒーを差し出すとお礼を言ってくれた。
相談者様がコーヒーを一口飲んだ頃合いを見計らって、店長がキッチンからカウンターに出て来て、目の前に座る相談者様にそう聞くと、相談者様は重い口を開けた。
「菊池佳弥と言います、宜しくお願いします」
相談者様基、菊池佳弥さんは、カスタマーサポートの仕事に勤務しており、年齢は23歳。
今回ここに来て下さった理由は「ストーカーに命を狙われているかもしれない」から。
菊池さんがストーカーに命を狙われていると気付いたのはまず、殺害予告の手紙が家のポストに入れられていたから。
それから最近は誰もいない道を通っている筈なのに足音が聞こえる事がある事。
「それ……、警察や探偵さんに相談した方が……。知り合いの探偵さんがいるので探偵さんは相談出来ますけど……」
「それじゃだめなんです……!」
命を狙われる何て警察事だし、警察に相談した方が僕は良いと思うんだけれども、菊池さんはどうやら相談したくないご様子。
「え……、」
「警察とか、探偵とか、それじゃだめなんです……。私、ずっと仕事で失敗してて……、次この仕事が出来ないと辞めさせられかもしれなくて……。警察事何かに行けば、当然会社の人達にも事情が漏れる可能性があります……!そうなれば私は……」
「……」
「わかりました。この依頼、コルリスがお引き受けします」
「店長……」
僕が端末を出し、知り合いの探偵の連絡先を菊池さんに見せると、急に立ち上がってそう叫ぶ。
会社での地位を優先して、命失う何て事にならなければいいが。
まぁ、だからここの店を選んでくれたのだろう。
瞳をうるうるとさせながらそう声を張り立てる。
店長ならこう言う人、放っておけないだろうな何て思いながら菊池さんが座っている隣のカウンター席に腰掛けた。
私が腰掛けた数秒後、店長は声を上げ、菊池さんに手を差し出す。
やはり、店長はそう言いますよね。
その後、菊池さんの電話番号、住所等を聞き、今日は菊池さんにはここで帰ってもらった。
そんな事があったのがつい数分前。菊池さんの電話番号、住所等がメモられたその用紙は数分経った今もカウンターにあるバインダーに挟まっている。
「店長、今回の依頼、本当に受けるんですか?」
僕がカウンターに置かれたバインダーを手に取り、菊池さんの情報を見ていると、奥のキッチンから店長が出て来たので、本当に今回の依頼を受けるのか、店長に聞いた。
まぁ、聞いた所で店長の答えは決まっているのだが……。
店長は蛇口をひねり、手を洗いながら僕の質問に答える。
勿論答えはYESだった。
店長が相談者様の依頼を断る何て、しないと思った。
思ったけど……今回の依頼は嫌な予感がしたから。
「勿論。相談者様の依頼は断らない主義だから」
「……何処かの探偵みたい……」
店長が手を洗い終え、タオルで拭いていると僕は一人そうつぶやいた。
ここのカフェの常連客に探偵がいる。
先程知り合いの探偵がいると言っていたのも、その探偵さんだ。
常連客、しかも絶対に1週間に3回は通ってくれる。
コルリスをかなり気に入ってくれていて、そう言えば前に僕たちじゃ解決出来ない依頼が舞い込んでいた時も捜査協力を頼んだら快く引き受けてくれていたな。
「あ、そうだ。瀬凪くん、明日はcafeの方の仕事はお休みでいいよ」
僕がお客様や相談者様がいたテーブルやカウンターを濡れ雑巾で拭いていると店長がそんな事を言い出す。
「え、?どうしてですか……?」
「その代わり、菊池さんの様子を見に行ってきてくれるかな?」
「あ……、そう言う……。わかりました」
僕は最初戸惑ったが、店長の意図を聞けば、ほっと胸を撫で下ろす。
良かった、辞めさせられるとかじゃなくて……。
「絶対に、目を放さんでくれよ。昨日届いた手紙、今日も聞こえた足音、部屋の物音、明らかにだんだんストーカーが近づいてきているんだから」
先程までのおちゃらけた店長が急に真剣に、そう言った。
やはり、店長も気付いていたんだ。
数々の違和感に。
僕は店長がそう言った数秒後、遅れて返事をする
「……はい、店長」