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「失礼ですが、少し亡くなられたお子様の部屋に入らせて頂けませんか?」
「えっ……と、それは旦那様がどう思われるやら……。キッチンへの立ち入りも、やっとのことで了承を貰えましたので……」
「……では、亡くなられたお子様の母子手帳を見せて頂けますか?」
「それは奥様、なずな様が所持しておられるので了承を貰えるかと……。少々お待ち下さい!」
もう喉まで真相は出掛かっている。
後は証拠を集めるだけだ。
僕がそう使用人に訊ねると、目を泳がせ、冷や汗を流しながらそう応えた。
なるほど、先程の話で薄々勘付いてはいたが、旦那様基依頼人さん……耶麻さんの弟君は、かなり気位の高い御方らしい。
使用人もかなり苦労しているのだろう、腕に掴まれた痕や、火傷の痕まで残っている。
良くもまぁ、そんな暴力男に仕え様とするものだ。
僕なら慰謝料を請求してその旦那様とやらを社長の座から引きずり降ろす程度にはするのに……。
部屋は諦めよう、と一つ溜め息を吐き、改めて違う物を使用人に頼む。
母子手帳、正式名称を母子健康手帳といい、妊娠中から小学校入学までの母親と子供の健康記録をまとめた冊子のことだ。
妊娠の届出をすることで、各市区町村から交付される。
今現在も交付が続いていただろうから、母子手帳位は持っているだろうと尋ねると、それは旦那様ではなく奥様の方が所持しているらしい。
そう言って去って行った使用人の走り姿を見て気付いた。
先程もだが、彼は足を引きずっている。
足にも何か傷があるのではないだろうか、と。
「お待たせ致しました。奥様から借りてきました、母子手帳になります。まとめてしまっていたので、全員分持ってきましたが……。素手で触れても構わないそうです」
「ありがとうございます。お借りします」
「母子手帳何かで一体何が……」
しばらくして戻って来た使用人の手には、何やら高級そうな箱が。
使用人の口ぶりから察するに、どうやらこの箱に母子手帳が仕舞われている様だ。
れ、令嬢のものだ、丁重に扱わなくては……。
何て思っていると、使用人がそんな事を言った。
どうやら、気位の高い主人と違って、聡明でお優しい方らしい。
では遠慮なく、と手袋等を着用せず母子手帳に触れる。
最初は現在小学二年生の子供。
特に妙な点は無いが、僕の思った通りの事が記載されていなかった。
次に小学五年生の子供。
こちらも妙な点はない。
だが、やはり前者と同じく、思った通りの事が記載されていなかった。
そして次に中学二年生の子供。
妙な点は無い。
が、他2人と同じく、思った通りの事が記載されていない。
いや、言葉を選び間違えたな、3人とも〝記載されていない〟のでは無い。
〝消されている〟のだ。
そして、最後に高校一年生の子供。
妙な点はない。
だが、他3人に記載されてい無かった物が、最後の子供には記載されていた、数字の0と。
これでこの事件の真相は解けたも同然。
テーブルの上に広げた母子手帳を高級そうな箱にもう一度戻す。
さぁ、解き明かそうこの事件を。




