〈file2〉
日が暮れ、時刻が20時を回った頃、その男性は相談所であるコルリスを訪れた。
顔を一目見ただけで、僕は誰なのか分かってしまった。
昼時、ほころびにいたあの意味深な言葉を残していたサラリーマンの男性である。
流石に反応し過ぎてしまうと、こちらの事情に気付かれかねない。
なるべく平静を装って、ただの相談員として彼の話しに耳を傾ける。
「その……私の知り合いの子供が最近、数日間に渡り何人も亡くなりました。その真相を突き止めて頂きたいのです……!」
「亡くなった……と言うと?」
「……はい。亡くなった子はまだ全員未成年で、家族で夕飯を食べていると、突然毒にでも犯されたかの様に苦しみだしたらしく、そのまま……」
「毒……。失礼ですが、そのお子さん達のご年齢を伺っても宜しいでしょうか?」
「瀬凪くん?」
依頼人さん……基、耶麻徳睹さんの依頼内容はこうだった。
彼の弟の子供が、先日から数日間に渡り何人も亡くなったから、何故亡くなってしまったのか突き止めて欲しいというもの。
その弟さんの子供は4人。
亡くなった子供は3人で、全員未成年だと言う。
毒に犯されたかの様な苦しみ方……それも突然死。
何かあると踏んだ僕は、その子供の年齢を耶麻さんに尋ねた。
年齢を尋ねた僕に不信感を抱いた店長が僕の顔を見上げてくる。
もし赤子なのであれば、蜂蜜も毒になりかねない。
人から聞いた話しだが、蜂蜜に混入している可能性のあるボツリヌス菌の芽胞が、赤子の未熟な腸内環境で発芽増殖し、毒素を生成する「乳児ボツリヌス症」を引き起こす可能性があるのだ。
主な症状は便秘、全身の筋力低下、脱力状態、ほ乳力の低下、鳴き声が小さくなる、顔面の無表情等で、早期発見が難しい病である。
明確にはなっていないが、ボツリヌス菌の潜伏期間は3日から30日間程度とされている。
つまり、普段は何の毒性もなく、僕達の身近にある蜂蜜も、生まれたての赤子、少なくとも1歳未満の乳児には、死に直結する〝毒〟と言って良いほど危険なものなのだ。
「年は……一人が小学二年生、二人目が小学五年生、三人目が中学二年生だと聞きましたが……それが何か……?」
「……いえ、僕の思い違いでした。もう二つ。その日、その日の皿や料理から毒は検出されましたか?」
「いえ……、数日間全ての皿を乗せていたお盆や、調理器具まで調べて貰いましたが、鑑識さんがそれらしき物は検出されなかったと……」
「そうなるとその前に毒を食べていたのか……?なら何だ……?」
「……?」
蜂蜜で……と言う推測は、耶麻さんの応えで掻き消された。
となると料理が入れられていた皿か、あるいはその料理自体に毒が盛られていたか……と思ったが、それもハズレだった模様。
一応子が倒れたその時に警察は呼んでいた様で、鑑識さんに一通り調べれもらったのだそう。
それでも、毒は検出され無かった。
ならば毒では無い。
一体、何が子供を殺したのだ―――。




