〈file4〉
「ちょ、ちょっと君!未成年がこんな時間に何をしているんだ!それとここの住民では無いだろう!出ていきなさい!」
「あのっ……、僕こう言う者で、急いでいるんです!通して下さい……!」
「……っ!プレベントの……!?し、失礼しました……!どうぞ、お通り下さい!」
案の定、僕はビルに入ったところで警備員らしきおじさんに肩を掴まれ立ち入りを禁じられた。
そこで、上着のポケットから例のもの……サイレントバッジを取り出し、警備員さんに見せてみせた。
サイレントバッジも、望命くんから預かった物。
プレベントに所属する者しか所持していない貴重な証明バッジ。
これはかなり便利だ。
悪用すれば、犯罪にだって利用できる。
警備員さんは冷や汗を流しながら、僕の肩に置いていた手を退ける。
急いで階段をかけ上げると、最上階に一つの扉が見えた。
ここが屋上への唯一の出入り口。
ドアノブに手を掛け、思い切り扉を開く、その先にいるのは………。
「あら、誰か来ちゃった?」
「あの……、えっと……」
「良いのよ、私のことを探りに来たのでしょう?何でも聞いて。あの事務所に出入りしていた子の顔は一通り覚えているから、貴方があそこの事務所に普段いない子だって事、知っているわ」
「……なら、尋ねます。貴方は誰ですか?」
「そうね、どう応えましょうか。もうすぐこの世を去る女、とでも言っておくわ」
着物を着た、若く美しい女性が不思議そうに、でも余裕気で、こちらを見てくる。
僕が何も言えずに言葉を詰まらせていると、彼女はそう言った。
確かに僕は、クレサイの事務所に出入りしたことがない。
今日が初めてだ。
彼女は、望命くん達の顔を正確に覚えているという。
12月を解らせる強風が吹き、彼女の長髪も、僕の髪も靡く。
彼女の「何でも聞いて」と言う言葉を聞き逃さなかった僕は、彼女が何者かを尋ねた。
そう応える彼女の目に、光は無い。
自殺でもする気なのか、あるいは誰かに殺害されると思い、何もかもを捨て置きてここに来たのか。
僕は質問を続ける。
どうしてここで踊っているのかと。
彼女は応えた。
「踊る事が好きだから、最期位は」、と。
やはり自殺……いや、まだ決まったわけではない。
「ねぇ、私からも質問して良いかしら?」
「……何でしょうか」
「君、名前は?」
「……榮倉瀬凪。この街の喫茶店で住み込みで働いています」
「そう、瀬凪くんって言うの。良い名前ね。ありがとう、最期に貴方に会えて良かった」
「っ……!」
僕が俯きながら考えていると、彼女は聞いてきた。
僕の名を。
別に名乗るほどの名は持ち合わせていないが、それでも応えた。
ついでに、コルリスで働いていると言うことも。
答えれば、彼女はニヤリと笑ってそう言った。
笑った直後、その顔が見えなくなったのだ。
飛び降りている、そう理解するまでに時間が掛かりすぎた。
僕が手を伸ばしても、もう届かない。
諦めるな、諦めるなと心に言い聞かせても、やはり手と手は繋がらなくて。
「届いて……、届いてよぉ……!」
「何してるの!もっと手を伸ばさないと届くはずないでしょ!」
「っ……、え……、?」
「あんたは……!」




