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「深夜に屋上で踊り続ける女の幽霊?」
「そうなんや!クレサイの事務所の近くで目撃情報が出ててな!俺ら事務所に寝泊まりする時多いから、ほんっまにビビってんねん!後、幽霊は専門外や!」
「眞人、そんな事言ったら瀬凪くん困っちゃうでしょ?」
「せやかて!」
12月7日
先日の亜蘭さんの事件の後、宣言通り望命くん達はコルリスを訪れてくれた。
そう、前回来た時に言い残した〝例の女の子〟を連れて……。
僕が「OPEN」の表札をコルリスの扉に掛けていると、彼らはやって来た。
望命くんと眞人くん。
それから、望命くんの言っていた彼女・柏木瑠依さんを連れて。
僕は驚きすぎたからか、柏木さんが望命くんと仲睦まじく歩いている所を目視して、思わず
「望命くんの彼女だぁー!!」
と近所に聞こえる位大きな声で叫んでしまった。
聞けば柏木さんは、望命くんと同じくプレベントに所属していた探偵さんだったと言う。
僕や眞人くん達よりも一つ年上で、優しいお姉さんの様な一匹狼の大人しい女の子。
とりあえず立ち話も何だから、とコルリスに入って貰い、温かいコーヒーを3人に提供した。
望命くんは先日の事で働かされたからか、ここに来るまでは瀬凪くんの奢りね、と言っていたのに、いざ入店するとイマドキのオシャレな男の子が持っている様な紺色の折りたたみ財布をガッチリと鞄に入れていた。
大人しい女の子だと思っていた柏木さんは、意外にも面白く望命くんの事を「神」と呼び、崇め祀っているらしい。
幼稚園生だった頃の望命くんの現像した写真を見せると、その場に倒れ込んで「尊い……」と発言してそのまま眠ってしまった。
そして、眠ってしまった柏木さんを四人座席に仰向けにして寝転がせ、キッチンに戻ったところで、眞人くんからの「依頼」の話しが始まり、今に至る。
事件の詳細はこうだ。
ここ、萬街では最近度々高層マンションのビルで踊り続ける女の幽霊が出ると噂が立っていた。
その高層マンションと言うのが、眞人くん達の事務所、クレインサーベイの所在地のすぐ向かいのビルらしく、事務所に寝泊まりすることが多い2人は、かなり畏れているらしい。
まぁ確かに、眞人くんの言う通り、目撃情報がある限りその女性はこの世に存在していることになる。
だから気になるのはよくわかるのだが。
「え、それで何でコルリス?眞人くん、助手なんだから自分で捜査すれば良いじゃん。わざわざお金を払って依頼何て……」
「そんなんなぁ………!」
「そんなん?」
「怖いからに決まってるやろぉぉぉ………!」
「あぁ〜………」
「ごめんね、瀬凪くん。こう見えて眞人、凄くビビりで」
「大丈夫、知ってるから」
そう、彼はあの警察関係組織、プレベントに所属する助手だ。
捜査なんてプレベントに所属する全員に与えられる助手サイレントバッジを見せれば、普段立入禁止のところでも入れて貰えると言うのに。
サイレントバッジの後方には弁護士バッジと同じで、登録年数と、それから登録番号が記載されている。
探偵さんや助手さんは、このバッジをプレベント入所時に貰える為、無くせば終了……の激レアアイテムだったが、最近になってようやく、登録番号を覚えていればいつでも再発行出来るようになったらしい。
散々もったいぶった末、眞人くんは理由を教えてくれた。
望命くんはもぅ、とでも言いたげな呆れた目で彼を見ている。
呆れたようにそう声を発する僕に、望命くんは謝ってくれた。
そんな望命くんに知ってるよ、と溜め息を吐きながら応える。
「どうします、店長?僕としては受けて上げたいですけど……」
「うん、そうだね。2人には瀬凪くんがお世話になっているし、冬李にも世話になったから、僕も全然構わないよ」
「ほんまか!?ホンマにええんか!?」
「勿論!この依頼、コルリスが請け負うよ」




