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「な、何その曖昧な応え……!記事の事でかなり言われてたじゃん!」
「うん、そう、そうなんだけど……冬李さん、そのアンチ?に対してクレサイの事もバカにされたのが許せなかったらしくて……今もそのアンチ達との戦いに燃えてるんだ……。それに瀬凪くん、冬李さんが大丈夫なのは知ってるでしょ?火種は昔からあったんだから」
「ほんま、あのへこたれへん性格どないかして欲しいわ……。いや、それで翠花さんの汚名をちょっとでも綺麗に出来んねやったら嬉しいんやけど……」
少し呆れたように目を泳がせながら応える2人に、僕はさらに冬李さんの事が心配になった。
僕がそう焦りながら問いかけると、2人はやっと今の冬李さんの現状を話してくれた。
なんでも、数日前に掲載した冬李さんの記事にも沢山の〝善良な街人〟が誹謗中傷の書き込み、所謂アンチコメントを残していったらしく、冬李さんは最初、疑問に思ったのだそう。
何故こんな事をして人を貶す必要があるのか、と。
だが、次第に誹謗中傷の書き込みは日に日に増して行き、ついにクレサイの事までバカにされた事に冬李さんも堪忍袋の緒が切れ、その善良な街人達にコメントを返して、またその善良な街人達から誹謗中傷され、それにまた冬李さんが皮肉なコメントを返す……と言った事を繰り返しているらしい。
眞人くん曰く、「瀬凪くんの言う善良な街人達が折れるまでが勝負やな」だそうで、冬李さんが折れる事はまずないと言う。
僕はそんな話を聞いて心中思った。
冬李さん、討論とか絶対強い人だ……!、と。
「だから、冬李さんの事は心配しなくても大丈夫だよ。俺達が冬李さんを止めてる位だし……」
「せやな。とーりのやつ、どこまであれ続ける気なんやろ……」
「……また、冬李さんにお礼言わなきゃ……よかったぁ……、本当によかったぁ……。望命くんも眞人くんもありがとう」
「「どういたしまして!」」
望命くんが俯く僕の顔を覗き込み、そう言ってくれた。
僕を安心させる様に、ゆっくりと、穏やかなその声色で。
眞人くんも望命くんも僕と同い年で、でもどこか大人びた2人。
でもその〝大人びた〟理由には、多分もっと深い理由が隠されていて、きっと二人とも早く大人にならざるを得なかったのだ。
プレベントの探偵、助手として、街のみんなや、大人から期待を背負わされて、何かあれば、自分の所為だと消せない傷を抱えて、15歳じゃ抱えきれないものに押し潰されながら、彼らは今を生きている。
この街で埋もれる救済すべき人達を救うために。
その日は、二人に何度も何度も礼を言ってコルリスの玄関先まで見送った。
先日も言った通り、僕はこの街の人達全員を救って上げよう、何て気にはなれない。
この世界には「善」がいて、それを判断する「仲裁人」がいて。
そして、「悪」がいる。
全ての罪を背負って、善良な街人達に叩かれる様なまことしやかな悪者が。
そうであれば、物語はシンプル且つ、理解しやすくなるのだ。
だが、今回の事件の善良な街人の様に、「自分達は正しい」、「あいつが間違っている」と正義面をして人を苦しめる奴らもいれば、「悪」とレッテルを貼られ世間に叩かれ、苦しんでいる善人だっている。
世界は僕が思っているほどシンプルでも無く、理解しやすい訳でもなかった。
だからこそ、救い上げていかなければならないのかも知れない。
「……店長」
「何かな?」
「コルリス、まだまだ頑張らなきゃですね!」
「……そうだね。あの子達に負けないくらいには」
この街で苦しむ、取りこぼされた「悪」と呼ばれる善良な市民達を―――。
―――@Day2『正義と理論』終幕―――




