〈file7〉
「……瀬凪くん、最初から事情を説明して貰っても良いかな?」
「っ……はい」
そう、この事件の発端でもある「中学生雑居ビル事件」
その事件の真犯人は翠花さんでは無く、翠花さんの実兄・亜蘭さんなのだ。
僕に全て知られたと分かったからか、亜蘭さんは顔を上げて吃驚している。
もう頃合いなのかも知れない、と僕は店長に全て説明する事にした。
「中学生雑居ビル事件」の事は店長も是認していた為、話しが早かった。
昨日、店長がいぬ間に亜蘭さんから依頼を受けた事。
店長には全て黙っていて欲しいと頼まれた事。
望命くん達に相談して、事件解決を手伝って貰った事。
―――目の前で、中学生の女の子を死に追いやってしまったと言う事。
末尾部の事は、決して許される事ではない。
そもそも、ただの一般人である僕が事件現場に出入りすると言うことも、普通は許されない事だ。
今回の事は望命くんが警察関係者やプレベント内部へ熟達に瞞してくれただけ。
それがなければ、今頃どうなっていたのだろう。
考えるだけで恐ろしい。
店長は、僕が話し終えるまで黙止してくれていた。
話しを遮ることは無く、黙って、遮ろうとした亜蘭さんを収める。
「―――と言うことが今日起きた出来事です。そして、今日の出来事の発端となった「中学生雑居ビル事件」。その事件を起こした真犯人が亜蘭さん。あなただと言う事何です」
「………なるほど。でも瀬凪くん、その事件の犯人が亜蘭さんだとして、証拠はあるのかい?」
「……先程、望命くんから連絡がありました。沢山見つかったそうですよ。あの事件の犯人が、亜蘭さんだと言う証拠が」
まず、「中学生雑居ビル事件」の主な詳細を説明しよう。
この萬街の東側に位置する古びた雑居ビルで男の人を中学生の女の子が刃物で殺害した事件。
その事件で亡くなったのは中年の男。
名前は秋棲亮平52歳。
その事件を起こしたという中学生の女の子が途神翠花さんだと警察は見込んでいた。
が、真相は全然ちがう。
そもそも翠花さんにはアリバイがある。
その日その時間、彼女は確かに家を出た。
でも外出したのはせいぜい2時間程度で、往復8時間以上掛かる廃ビルにわざわざストーカーを呼び出して殺す事は不可能。
いくら証拠があるとは言え、容疑者にアリバイがあり、尚且つ秋棲と言う成人男性の鍛えられたストーカー大男を一切無抵抗で中学生の女の子が殺せるはずがない。
どれだけ鋭い刃物を持っていても、だ。
その雑居ビルに残っていた証拠、と言うのが翠花さんがいつも身につけていたオーダーメイド品のキラキラ光る本物の宝石が付いた髪ゴム。
まぁ確かに、加害者を疑う証拠がオーダーメイド品であるならば、警察が間違える事も分かる。
だが、その日翠花さんはその髪ゴムを身に着けていなかったのだ。
余程大切な物なのだろう。
自宅の金庫にしまっている所を、朝翠花さんのお母様が目撃していた。
殺害動機は怨恨。
そこに変わりはない。
怪しい途神家の皆様のアリバイを当たった所、翠花さんのお母様はその日その時間、いつものショッピングモールで買い物をしている所を彼女のレジを担当した女性が覚えており、そのショッピングモールから自宅までは、2、3時間程度。
つまり彼女は白。
次にお父様。
彼はその時間、仕事場である編集部で後輩の隣で熱心に仕事に取りかかっていたそうだ。
彼の後輩がそう証言してくれたんだそう。
と、言う事は彼も白。
そして最後に亜蘭さん。
彼はその日、大学が午前授業だった為、いつもより早く帰宅した。
まだ中学生の翠花さんは学校。
お父様は仕事、お母様は買い出しに出かけていた。
つまり、彼にその日その時間のアリバイがない。
そして動機も十分。
翠花さんの部屋に入室し、髪ゴムを盗むことも可能。
その翠花さんの髪ゴム、翠花さんの指紋の上にまだ新しく付着したと思われる亜蘭さんの指紋も着いていたらしい。
これらの情報を合わせ、その日その時間アリバイがない人物。
ここまで来れば、犯人はもう決まっている。
妹、翠花さんのストーカー男・秋棲さんを殺し、翠花さんにすべての罪を着せた人物。
それは―――。




