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ヒーローになりたくて  作者: CANA.
@day3 - 正義と理論【コルリス:trivial case】

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〈file6〉

亜蘭さんの大声とも取れる声に驚いたのか、店長は数分黙り、亜蘭さんの注文を確認した。

そうだ、と目の前のカウンター手を伸ばしながら、亜蘭さんを席に案内する。


亜蘭さんも、僕に依頼したことがバレていないと安心したのか、ほっと安堵し、案内された席に鎮座する。

お客さんが来ているからと早くカフェユニフォームに着替えるようにと僕を促した後、店長は注文されたコーヒーを淹れるため、キッチンへ戻ってしまった。


バックヤードでカフェユニフォームに着替えている時に考えた。

もしかすると店長は、亜蘭さんが依頼人だという事も、僕が彼からの依頼を何らかの理由で店長に隠している事も、全て見透かされているのではないかと……。

ほわほわしているように見えて、実は人の機微に敏感だ。

気づかれていてもおかしくはない。


怖い想像をしてしまった、とロッカーの扉を閉じながら思う。

僕が店長のいるキッチンへ向かおうとバックヤードの扉のノブに手をかけた時、規則正しい着信音が鳴り響く。

端末に表示された名前を目視した僕は物陰に隠れ、「通話」と表示された画面をタップした。




「望命くん!僕、瀬凪だけど、何かわかった?」


『……』


「……?望命くん?」


『瀬凪くん、落ち着いて聞いて欲しい。それと、俺がこれから話すことは信じたくないけど、真実何だと、受け止めて欲しい。僕なりに調べ上げたよ、これが本当の真相なんだ』




端末に表示された名前は「望命くん」。

そう、彼からの電話だということは秋棲さんが殺されたあの廃ビルに行ってから何か手掛かりを掴んだのかも知れない、と言うこと。


僕は咄嗟に物陰に隠れ、「通話」をタップ。

彼の名前を意気揚々と呼ぶ僕に、返事が返って来ない。

そんな望命くんを怪しげに思い、もう一度名前を呼ぶ。

今度は少し伺うようにして。


すると、彼はようやく口を開いてくれた。

だが、そう僕に語りかける声は何処か元気がなくて、暗くて、震えていて、いつもの望命くんでは無いような気がして、悪寒が背中をよぎった。


続けて話す望命くんにごくりと唾を飲む僕。

彼がここまで言い淀むような真相なのだとしたら、先程の悪寒は当たっていて、僕が想像する”最悪の真相”よりも醜悪な物なのだろうと、勝手に頭で推測した。




『この「中学生雑居ビル事件」の本当の真相は―――』


「―――………え、どうして……?そんなのおかしいよ……!望命くんも聞いてたでしょ、亜蘭さんの話し!」


『……うん、聞いてたよ』


「っ……なら……」


『でも、これが真実なんだ。俺も、たくさんたくさん考えた。間違いだって思いたくて、手帳が真っ黒に染まるくらい書いて書いて、考えたよ。でもこの真相以外、出て来なかったんだっ………』




この事件の真相を聞いた僕は絶句して、自分の耳を疑った。

聞き間違いなのかと、何度も何度も望命くんに聞き直したけれど、証拠も、アリバイも、辻褄も、望命くんも辛いはずなのに、必死に僕を説得する彼を責めた。


信じたくなくて、受け止めたくなくて、心のなかでその真相ごと拒絶する。




『………俺はまだ、この「中学生雑居ビル事件」の真相を眞人と冬李さん以外に話していない。だから、瀬凪くんが決めてよ』


「え……、?」


『この事件をどう解決するのか。どう、加害者に伝えるのか。君が決めてよ。そうすれば俺は、瀬凪くんの言う「解決」を手伝えるし、警察にもプレベントにも言いたくないなら、その意見を尊重する。まだSNS、メディア、記事。それらの翠花さんへの誹謗中傷は鎮火していない』


「……僕が望命くんが望まない解決をしちゃうかも知れないのに、良いの?」


『うん!だって君はそんな事しない人間だって、俺が一番知ってるから』




拒絶する僕に、望命くんはある提案をして来た。


話をまとめると、「中学生雑居ビル事件」の真相は仲間以外誰にも話してないから、プレベントに伝えるかどうか、警察に伝えるかどうか、どう解決するのか。

全ての権限を僕に委ねる、と言うものだった。

勿論僕は反対した。

そんな事は荷が重すぎると。


望命くんは、僕がプレベントや警察に伝えないでくれ、と言えば本当に話さないだろう。

知らないフリをして、墓場までこの真相を持っていくつもりなのだ。

でも、そんな事をすればいつかバレた時、望命くんは今後、探偵だと一生名乗れ無くなる。


それは僕も嫌だ。

自分の決断のせいで、同じ齢の少年の夢を壊すなんて事、絶対に出来ない。

そんな事をすれば、僕は自分を一生仮借なくなるだろう。

僕が望命くんにそう切羽詰まったように問いかけると、彼は笑った。


いつもの可愛くて大人びた、その声で。

決断を迫られている僕とは違い、鷹揚な態度で望命くんはそう囁くように言った。

望命くんにそんな事を言われた瞬間、目の前で火花が散った。

優しくて、温かくて、包みこんでくれるような光。

でも何処か、こちらを見通す様なそんな光が。




「………わかった。僕も一度考えてみるよ。僕の思う、解決を」


『うん!そうして見て!瀬凪くん、絶対探偵に向いてると思うから、こう言うの得意だと思うよ!』


「………プレッシャー掛けないでよ……」


『ふふっ。ごめん、ごめん』


「………望命くん」


『ん?』


「ありがと」


『……!どういたしまして!』




望命くんにここまで言われては、断る理由もない。

僕が解決方法を考えると言うと望命くんは声だけでもわかるように巫山戯って嬉しそうにしてくれた。

だが、探偵になれる、と言う望命くんの言葉に僕は少しひっかかった。

探偵は立派なお仕事だ。

それを平然とやってのける望命くんが凄いと言うことも、僕は分かっている。

でも、僕は探偵に向いていない。

謙遜ではない、本当に自分でそう思っているのだ。


何故なら、人は平然と嘘を吐くから。

僕は嘘はそれほど好きではない。

誰かを疑うと言うことには長けているのだろう。

だか、全てを疑い過ぎてしまうが故に誰が被害者で、誰が加害者なのかを見抜けない。

だから僕は、探偵に向いていない。


僕の不安そうな声に望命くんは笑う。

この事件で分かったことがある。

望命くんはやはり優しいということ。

言い方を少し変えるなら、お人好し。


昔から持ち合わせるその唯一無二の優しさが、この街の人達を救っているのだろう。

意を決して僕は、もう一度ドアノブに手を掛け、今度は押し出すように扉を開いた。




「―――え、?瀬凪くん……?今、何と……」


「………」


「聞こえませんでしたか?「中学生雑居ビル事件」。その犯人はあなただと、言ったんです。亜蘭さん……!」

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