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ヒーローになりたくて  作者: CANA.
@day3 - 正義と理論【コルリス:trivial case】

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12/93

〈file5〉

倉庫(ここ)だ……」


「本当にここに翠花が……」




萬駅から直進して約2キロ先にその倉庫はあった。

確かに望命くんの言う通り、新しく出来た倉庫らしく、まだ誰も使っていないようだった。

だが、誰も使っていないと言うのに扉の南京錠が開いていた。

それに、微かに倉庫内から女性物の香水の匂いも香っている。


やはり、翠花さんはここにいる。

そう確信した僕達は重く堅い倉庫の扉を勢い良く押し開けた。

その先にいたのは………。




「「……!?」」


「お兄……ちゃん……?と誰……?」


「翠花……!何をしているんだ?そんな高いところで……今すぐ降りてきてくれ!頼むから……」


「こればっかりはお兄ちゃんの頼みでも無理。もう限界なの。ごめんね、バカな妹で」


「翠花……!」




扉を開けた先に見えたのは、倉庫の2階の柵に靴と靴下を脱いだ足をかけ、立っている翠花さんの姿。

亜蘭さんが翠花さん説得している内に僕は、物陰に隠れていた2階へ登る階段に足を踏み出す。

ここで翠花さんが自殺なんてすれば、僕は……亜蘭さんは……。


人の命がかかっているからか、ただ僕が動揺しているだけかどちらかはわからないが、いつもより足が重く感じる。

まるで、靴に鉛でも入れられているのではないか、と思うくらいに。

こちとら、カフェ仕事をしている身だ。

体力は人よりあると自負していたのだが……。


僕が長く感じる階段を一歩ずつ急いで登っていると、鈍い音がした。

ナニカがコンクリートに突きつけられたような、そんな音が。

その音と同時に、水が飛び散るような音もして、それから亜蘭さんの悲鳴が聞こえた。


間に合わなかった。

僕がそう感じたときにはもう遅い。

たどり着いた2階には翠花さんの物と思わるる靴と靴下が丁寧に、そして一列に並べて鉄が錆びた柵の下にぽつんと佇んでいた。

僕が今いる2階の柵の間から、恐る恐る1階を覗くと……。




「あ………あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙……!」




頭の前頭部から赤く鉄の匂いが立ち込める液体が流れている翠花さんが俯いて倒れていた。


助けられなかった。

折角僕を頼ってくれたというのに余計に刺激してしまった。

泣き叫ぶしか出来ない僕を、亜蘭さんはどう思うだろうか。

とりあえず、その場の状況を見て、まだ翠花さんの意識があるかもしれないと救急車と警察……では無く、救急車と望命くんに電話をかけた。


わざわざ僕に依頼してきてくれ、しかも店長に知られたくない、と言う亜蘭さんの意図を汲み、警察に情報が漏れることがない望命くんに連絡したのだ。

彼ならこの事件、きっと良い形で解決してくれる、そう信じて。




「この子が例の『中学生雑居ビル事件』の……」


「うん……。でも翠花さんには、あの雑居ビルに立ち入れない」


「だね」




あの雑居ビルは、翠花さんの自宅から少なくとも4時間以上掛かる。

そんな所にわざわざストーカー男を待ち伏せして殺すなんてまず無い。

それに事件の日、翠花さんは自宅から2時間しか外出していない。

そんな短時間で家とあの雑居ビルを往復するなんて不可能。


その事に警察は気付いていない。

だから、僕達がこの事件の真犯人を探し出し、望命くんの解決方法で翠花さんの汚名をきれいに、せめて元通りに戻してあげなければ。


そう2人で意気込んだことは良いものの、亜蘭さんはこの事件を〝誰にも知られず解決〟して欲しかったのだ。

僕は彼を裏切って望命くんを自殺現場に召し出してしまった。

事情を説明したとして、彼が納得してくれるかどうか……。




「あの……瀬凪くん。彼は……プレベントの探偵なのか?もしそうならどうして呼び出したりなんか……」


「あ……えっと……」


「途神さん。俺は瀬凪くんの幼馴染で探偵ごっこが好きな素人の高校一年生、胡琶望命(くるはみこと)です。決して探偵ではありません。でも、これまでいくつかの事件をもう一人の幼馴染と、俺の叔父さんと共に解決してきました。瀬凪くんと俺を信じて、この事件を任せて頂けないでしょうか?」




やはり亜蘭さんは疑っていたんだ。

望命くんの事を。

彼を呼んだ、僕のことを。


僕が亜蘭さんからの質問に答える口が塞がって上手く声を出せないでいると突然、後ろから望命くんが自己紹介と説得を始めてくれた。

「自分は探偵ではない」、「ただの高校生だ」そう言って、亜蘭さんの期待通りに僕が動いたことを証明してくれた。


自らの名に泥を付けてまで彼は、僕と亜蘭さんの信頼関係を修復してくれたのだ。


そんな望命くんと望命の後に現着(現場に到着)した眞人くんも自己紹介をしてくれ、安心したのか、亜蘭さんは事件当時つまり、翠花さんが出ていった日の事をもう一度、2人に詳しく説明してくれることになった。











「―――と言う事がありまして、妹は数日後、姿を消しました」


「なるほど……。確かに近所でそんなにも噂が立つと、居心地は最悪ですよね」


「でもこの事件、結局ストーカーやった男の事を殺した女の子が姿を消して自殺したっちゅう事で解決やろ?その女の子が殺ってへん証拠でもあんのか?」




もう一度、今度は3人で亜蘭さんの話を聞き終えたその時、言葉を最初に発した人物は望命くんだった。

同情するようにして話しかける望命くんは、まさに天使そのもの。

天界から舞い降りてきたと言っても過言ではないこの優しさが、この街の人達を救ってきた大きな証なんだ。


せやけど……、と眉を下げてそう嘘の真相を述べる眞人くん。

証拠ならある……とは言えないが、アリバイならある。




「アリバイがあるんだよ。翠花さんはその日その時間、確かに家を出た。でも外出したのはせいぜい2時間程度で、往復8時間以上掛かる廃ビルにわざわざストーカーを呼び出して殺す事は不可能。殺すなら、もっと近場にしておけばいいしね」


「そら……そうやけど。でもその家から帰ってきた後の翠花さんの様子は誰も知らへんねやろ?せやったら帰ってきたふりして、窓から出ていくとか出来るやん」


「眞人、それは物理的に不可能なんだ。何せ途神さんの家はマンションの62階。飛び降りたりしたら即死だよ」




私がそう説明しても、眞人くんの表情は晴れない。

そりゃまぁ、プレベントに所属する助手として、警察や他の探偵が疑っている容疑者は疑うべきだ。

彼は間違っていない、何なら正しいまである。

だが、そもそも今回の事件は根底から違う。


いくら証拠があるとは言え、容疑者にアリバイがあり、尚且つ秋棲と言う成人男性の鍛えられたストーカー大男を一切無抵抗で中学生の女の子が殺せるはずがない。

どれだけ鋭い刃物を持っていても、だ。


望命くんが何処かで撮った写真なのか、検索に掛けたのかわからない高層マンションを端末に表示させ、眞人くんに見せる。

さすが望命くん。

亜蘭さん達の住所まで特定していたとは……。

これもうストーカーのレベルでは……?


何故家の写真を?、と言いたげな目線は、望命くんではなく僕に向けられていると気付いたときには、もう今後の話になっていた。




「とりあえず、俺と眞人は秋棲さんが殺されたって言うその廃ビルに向かってみるよ。何か手掛かりが残されているかも知れないしね」


「せやな!」


「じゃあ僕と亜蘭さんは一旦店に―――いや、それだと店長にバレるか……」


「店長にバレるんが嫌なんやったら、亜蘭さんは普通にカフェの客のフリしたらええねやん!普通の客相手に、あの店長が殺人の話題なんてそうそう振らんやろうしな!」


「なるほど!では瀬凪くん、店に戻りましょう」


「そうだね。それならバレないかも」




じゃあ、と言葉を紡いだ人物は望命くん。

先程までう〜ん……、と唸っていた眞人くんの服の首根っこを掴みながら、もう一度調べてくると言ってくれた。


なら僕達はと亜蘭さんと顔を見合わせ、店に戻るか提案しようとしたのだが、この事件を店長に内緒で解決すると決めた以上、店には戻れない。

それに、店に戻れば僕が望命くん達とカフェ視察に赴いていないことがバレるし……。


先程の眞人くんと同じ様に考えながら唸る僕に、彼はある提案をしてくれた。

確かにこの方法なら、店長に気づかれること無く店に戻れる。

眞人くんの提案に、店に戻ることを反対していた亜蘭さんは確かに、とその案に乗ることになった。

まぁ、どっちみち僕が望命くん達とカフェの視察に訪れていないことはバレるが、そこはもう良いだろう。




「店長、ただいま戻りました!」


「おや、瀬凪くん。もう帰ってきたのかい?」


「あ、あはは……。視察に行こうと思っていたカフェが朝までしか営業していなくて……。近場のカフェでお昼を済ませて早めに解散して帰ってきました」


「そうなのかい。?後ろの人はお客さんかな?」




カランカランと陽気な鈴の音が、店内に響く。

扉を開けた先にいるのは6人席のローテーブルに鎮座している家族と思われる数人のお客さんと、カウンターに座っている常連客の女性、湖西さんとカウンターの向かいに立って、雫が滴るコーヒーカップを手拭きしている店長。


僕がコルリスに足を踏み入れ、店長に戻った事を伝えると店長は直ぐ様僕に気付き、おかえり、と口にする。

店長にそう聞かれた僕はギクリ、と心臓が縮み上がる。

何とか下手な笑いで誤魔化せたものの、普通にバレかねないので、バックヤードに鞄を置きに戻ろうとすると、店長が亜蘭さんの存在に気が付いた。


あ、ヤバい、何て思えるほど、僕の心は余裕がない。

店長の言葉に内心だらだらと滝汗を流していると、亜蘭さんが店長に向かって言った。




「あのっ、コーヒーとパンケーキを一つ下さい!」


「……ご注文お伺いしました。コーヒーとパンケーキを一つずつですね」


「お願いします」


「立ちながらの食事は何ですから、お席にどうぞ」

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