〈file3〉
翌日、11月29日。
今日はあまり雪は降っていなく、人探しをするにはありがたい天候だった。
僕は萬街の駅前で待ち合わせた亜蘭さんと合流するべく、駅へと足を向けていた。
今日は駅前に向かう前にも少し寄り道をしてきた。
それが、例の雑居ビルだ。
確かに大量の血が飛び散り、凶器と思われる血のついた刃物が散乱していて、ミステリー漫画でよく見たことのある光景に仕上がっていた。
誰かが手を下したと見て、まず間違いないだろう。
誰が秋棲さんを殺害したのか、現時点でそれはわからない。
どちらにせよ、犯人は翠花さんに罪を着せようとしている。
一刻も早く翠花さんを保護しないと……。
「あ、瀬凪くん!来てくれてありがとう。心強いよ」
「それは良かった。……そう言えば、電話で言っていた翠蘭さんとの最後の電話の録音って、今聞かせて貰えたりする?」
「もちろん。今は周りに人もいないし、全然。えっと……あった。これだよ」
「ありがと」
待ち合わせ場所として指名された駅前に着くと、私服のオーバーサイズパーカーに身を包んだ亜蘭さんが姿を現した。
昨日、待ち合わせ場所を決めるために相談所で書いて貰った電話番号に掛けた。
その時に亜蘭さんは行っていた。
「妹と一度だけ電話で話して、録音もした」と。
その音声を聞かせてもらえるか確認したのだ。
僕がそう尋ねると、素早く端末を操作して録音アプリを開いて見せてくれた。
周りに人がいないことを再度確認し、端末のボタンを押すと………。
「あ、翠花か!?今どこにいるんだ?お兄ちゃんに教えてくれ!」
『お兄ちゃんでも教えられない。私は今、自分の罪を見つめ直すところにいるから』
「頼む翠花!教えてくれ!お兄ちゃん、誰にも告げたりしないから!」
『犯してもいない罪を悔いる事はできても、反省することは難しいよ』
「え?翠花……?何の話をしているんだい?」
『暗い。暗いよ、お兄ちゃん。誰も助けてくれなくて、誰も手を伸ばしてくれなくて、辛くて、苦しい。私には、お兄ちゃんも守る事は出来ない。ごめんね』
「翠花……、?翠花?翠花!?」
これが亜蘭さんの端末に残されていた微かな翠花さんの痕跡。
でも、このやり取りをしたのが3日前。
急がなければ、本当に翠花さんが危ないかもしれない。
でも、今の録音から少しだけど翠花さんの居場所を特定できる単語がいくつか出て来た。
大きく分けて2つ。
まず大前提として、翠花さんは警察に追われている未成年だ。
そんな未成年が、身分確認等をされずに立ち入れる施設は少ない。
そんな施設の中でも、雨風をしのげて尚且つ、誰にもバレずに自宅から1時間以内に存在し、立ち入れる所の有力候補となるのが、廃ビルと倉庫、橋の下だ。
だが、先の録音で翠花さんは「暗い」と発言していた。
廃ビルなのならば勿論その建物自体が崩れているから、光は入るはず。
橋の下も同様だ。
なら、昼間に電話してきて光が入らない場所、と言うのはもう倉庫しか残されていない。
それも窓が無い、ね。
「すみません、亜蘭さん。少し電話を掛けても良いかな?」
「え?あ、全然どうぞ。俺あっち行ってるので」
「助かるよ」
僕が亜蘭さんから離れて電話をかけた人物とは……。
「あ、もしもし望命くん。急にごめんね、今暇だったりする?」
『……瀬凪くん、暇じゃなかったら口裏合わせなんて手伝ってないよ』
「それもそうだね」
『で、どうしたの?俺に相談?』
「うん。実は―――」
そう、僕が電話を掛けたのは望命くん。
彼は調査の探偵だ。
僕がからかい混じりに聞くと、電話の中でそう呆れ声が聞こえてきた。
今日も依頼が来なかったらしく、がっくりと肩を落としているのだろう。
僕は望命くんに雨風をしのげて尚且つ、誰にもバレずに翠花さんの自宅から1時間以内に存在し、誰でも立ち入ることができる倉庫を探してほしいことを簡潔に伝えた。
伝えてすぐ、望命くんは眞人くんに電話を変わり、その条件にピッタリの倉庫を探してくれた。
所要時間は3分って所かな。
今僕達がいる駅前を直進して行った所に一つ、新しい倉庫が出来たらしい。
そこはまだ誰も使っていなく、職員の出入りもない。
隠れるには好条件の場所だ。
僕は望命くんに感謝の言葉を述べ、電話をを切って亜蘭さんとその倉庫へと向かった。




