〈file1〉
「延朴塔へ行く」
僕はそう言い放った。
眞人くんは何も言わず、ただ頷き、僕をコルリスから外へ促す。
扉を開ければ、冷たい夜の空気が僕らを包み込んだ。
コルリスの熱気は、もうそこにはない。
僕が今、歩き出そうとしているのは単なる道ではなく、望命くんの傷ついた心へと続く道だ。
僕には、針も糸もない。
でも、今僕が持っているもので望命くんのバラバラになった心を、もう一度縫い合わせなければならない。
彼の心にできた傷は、もう誰にも見えないかもしれない。
それでも、僕はその傷に優しさという糸を通し、痛みを感じさせないようにゆっくりと、丁寧に、縫い付けていこう。
隣を歩く眞人くんが、静かに口を開いた。
「あいつ、探偵を辞めるって決めたって言ってただろ?あれは嘘なんだ」
「え?」
「いや、辞めたいってのは本当なのかもな。
でも、あいつはまだ心のどこかで探偵としての自分を捨てきれていない。
だから、こんな夜にも一人で絶望の淵に立ってるんだ。
胡琶が探偵を辞めたいと思う様になったきっかけの場所で、全部を終わらせる為に」
眞人くんの言葉に、僕はただ頷くことしかできなかった。
彼の言葉は、僕が持っている「希望」をより確かなものにしてくれる。
さあ、行こう。
君の心にできた、深い傷を縫い付ける為に。




