〈後編〉
「……冬李、瀬凪くん達は無事に望命くんを救う事ができるだろうか……?」
冬李は、すぐに答えない。
彼は店長の不安を、正面から見つめていたのだ。
「きっと出来るさ。眞人は望命の辛さも、痛みも、苦しさも理解している。
すべてを理解出来なくとも、自分と同じ様な痛みを抱えている彼の存在は、必ず黒く染まった望命の心に響くはずだ。
瀬凪くんの真っ直ぐな純粋な言葉も、望命に温もりを与える」
「……だと、良いんだけどね」
店長は、冬李の言葉に深く、そして長く頷いた。
冬李も、彼の父親としての不安に気付いていた。
だが、彼はあえてそれに触れない。
なぜなら、冬李自身もまた、望命という一人の甥の存在を通して、言葉にできない不安と戦ってきたからだ。
彼らは、互いの痛みを言葉ではなく、ただ見つめ合うだけで理解し合う程、これまでに信頼関係を築いてきたのだ。
そんな店長に冬李はフッ、と微笑んでから話を続けた。
「ここが瀬凪くんの、彼らのヒーローとしてのスタート地点になる事を信じるとしよう」
「スタート地点?」
「あぁ。彼がどうして、こんな場所で、何の為にカフェ従業員をやってきたのか、と言う話しだ。
瀬凪くんは〝誰かの幸せ〟を守る為にこれまでこのコルリスと言う空間で働いていたんじゃないのか?」
「!そうか……。そうだな」
店長は冬李の言葉に目を細めながら微笑んで応えた。
榮倉瀬凪はいつだって天真爛漫で、純粋で、優しくて素直だ。
今回も望命を助ける為、強い本物のヒーローとしてじゃなく、弱くても優しさで誰かを救うヒーローになろうとしている。
そんな彼をずっと見て来た店長の不安も、危険な場所へ向かう瀬凪を止める事が出来ない自分の無力さも冬李の言葉で少し薄れると同時に、彼が望命を救えると願う気持ちが強くなった。
綺麗な唇に薄い弧を描き、今度は店長が冬李に話しかけた。
「冬李、瀬凪くんはヒーロー見習いとして延朴塔に登り、ヒーローとして延朴塔から降りてくるんだな。
実に感慨深い」
「あぁ。……何も出来ない俺達は、せめて願ってやろうじゃないか。
瀬凪くんが望命を救ってくれる事を……。
な、郁希」
「……そうだな」
これは、ヒーローに安らぎと癒しを届ける大人達のほんの少しのお話であった―――。




