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ヒーローになりたくて  作者: つむろ.〈CANA.〉
⚠day14.5 - 静寂の後で【コルリス】

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〈前編〉

冬の夜の静けさが、コルリスの店内に深く満ちていた。

数分前まで賑わっていた店内は、今はただ、時計の秒針の音だけが響いている。

店長はカウンターの奥で、ただ立ち尽くす事しか出来ないでいた。

彼の耳には、息子である瀬凪の言葉が今も鮮明に響いている。





「延朴塔へ行く」





壁越しに聞こえたその言葉の裏には震えと、どうしようもないほどの強い決意が込められていた。

父親として、彼の身を案じないわけにはいかない。

しかし、店長は知っているのだ。

瀬凪がこのカフェで働いていたのは、ただのアルバイトではなかったことを。


一杯のコーヒーを通して、人々を笑顔にし、安心を与える。

それは、彼が静かに、そして真剣に歩んできた「誰かの幸せを守る」というヒーローへの道だったのだ。


その時、ドアが開く音が静寂を破った。

そこに立っていたのは、望命の叔父であり、店長の幼馴染である冬李だった。

冬李は店長の顔を見て、多くを語らずとも、彼の心の葛藤を察する。




「……行ったんだな」




冬李の言葉に、店長は無言で頷く。

冬李は、望命がヒーローを辞め、絶望の淵にいることを語った。

ヒーローである自分を否定し、すべての希望を失った息子の友人の姿に、店長の胸は締め付けられる。

しかし、それは同時に、息子が旅立った理由が、決して無謀なものではなく、友を救うための必然であったことを店長に悟らせた。


店長は、ふと、カウンターに立つ。

そして、冬李のために静かにコーヒーを淹れ始めた。

コーヒー豆を挽く音、カップに注がれる湯気、立ち上る香りが、静かな店内に満ちていく。


その一杯は、息子たちの旅路の成功を祈る、彼の力強い決意を象徴しているようだった。


愛する息子が、自らの意志で選んだ道を、父親として、そしてこの物語の「賢者」として、静かに見守り続ける。

彼の背中には、夜のコルリスの灯りが、強く、優しく差し込んでいた。

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