ヒロインが幼女だった前世を思い出して、そっちの人格に性格が引っ張られた結果
わたくしはこの世界の悪役令嬢、メイヴ。
そして目の前の可愛らしいこの女性は…この乙女ゲームの世界でヒロインである、ライム。
ライムはわたくしが彼女が喜ぶだろうと用意した甘いお菓子や美味しい紅茶に目を輝かせる。そして美味しい美味しいと頬張る。
…まるで、幼い子供のように。
「あの…ライムさん、変なことを聞いてごめんなさい…貴女、もしかして、転生者…?」
「綺麗なお姉ちゃん、テンセイシャってなぁに?」
「えっと、他の…地球という世界の、日本という国にいたりしなかった?」
「!…お姉ちゃんも日本人なの!?」
「え、ええ、そうよ」
目の前の女の子は、明らかにわたくしと同い年なのにわたくしをお姉ちゃんと呼ぶ。
まさか、まさかと心臓が嫌な音を立てる。
「ねえ、貴女…今、おいくつ?」
「七歳!」
あ゛ぁあああああ嫌な予想当たったぁ!!!
マジで最悪だどうしてこんな天使みたいな中身の子が早死にするんだくそがぁぁぁぁぁ!!!
おっと、汚い口調は厳禁厳禁、わたくしは王太子殿下の婚約者なのだから。
「その、それは…お気の毒に…今の状況は、把握してまして?」
「えっとねぇ、うーんと、多分もうパパとママに会えないのは、なんとなく、わかるの…」
ごめんねぇー!!!マジでごめんね、代われるなら代わってあげたい!!!
「こっちの世界の…新しいパパとママは、意地悪さんで暴力?するからダメな人だって引き離された…でも、教会の聖王猊下は優しくて大好きだよ!ゆめの新しいおじいちゃん!」
「あ…貴女ゆめっていうのね」
「うん!ライムって名前?だったみたいだけど、イヤイヤしてたら元の名前にせいしきめーしょーも戻してくれたよ!聖王猊下のおじいちゃん大好きー!」
可愛い。
ぎゃんかわ。
そうか、もう正式名称もゆめちゃんなのね。
「では改めまして。ゆめ、わたくしはメイヴ。この国の筆頭公爵家の娘で、王太子殿下の婚約者よ」
「えっと、王子様と結婚する人だよね?」
「そうよ」
「じゃあお姉ちゃんはお姫様なの!?」
「ええっと…そうね、そうとも言えるかしら」
「わぁあああ!」
ゆめちゃんの目がキラキラ輝く。
「お姫様なんだぁ!すごぉい!」
「ありがとう」
「キラキラしてて、綺麗で、可愛いね!」
「ありがとう…」
わたくしはどうしてこうなったのかと、頭を抱えた。
無邪気すぎる!
「えっと…ゆめちゃんはこの世界の聖女様としての自覚はあるかしら?」
「うん!あのね、瘴気を祓うのがお仕事なのー!いっぱいできるよー!」
「それでね、ゆめちゃんは何人かの人を選んで瘴気を祓う旅をしなくちゃいけないの」
ここまではゲーム本編と一緒。
違うのはここから。
「王太子殿下は国を守る義務があるし、他の貴公子たちにもそれぞれ守るべきものがあるからってことで…日夜令嬢であるにも関わらず鍛え続けたわたくしが旅の同行者となることになったのだけど…あとわたくしが選んだ女騎士たちも同行者となるのだけど…いいかしら?」
わたくしたち〝この世界〟を生きる者にとって、ここは現実。
ならば彼女がむやみに攻略対象者たちと関わるのを避けたくて、旅に同行しようとする彼らを遠ざけわたくしを旅に出してくれと王妃殿下に願い出たのだ。
結果それは国王陛下と王妃殿下に了承され、わたくしがゆめちゃんの後ろ盾兼旅の同行者となることになったのだけど…。
「お姉ちゃんと旅できるの!?わーい!」
「えっと…不満とか不安はないかしら?」
「ないよ!」
即答される。
まあ、不満がないならとりあえず良かった…。
その後旅に関する注意事項などや旅の支度の話をした後、わたくしたちはお互いの人生を語り合った。
「つまりお姉ちゃんは、日本にいた時は病気で死んじゃったの?」
「ええ、貴女は…不運な事故だったのね…」
「…あ、そっか、ゆめ、日本では死んじゃったのか」
「あっ…!」
しくじった!
「えっと、えっと、ゆめちゃん…!」
「でも、おかげでこんな素敵なお姫様と出会えたんだね!お姉ちゃん大好きー!」
「ゆめちゃん…!」
なんていい子だろうか…護らねば!!!
「でも、乙女ゲーム?の世界って過酷なんだね…瘴気を祓わないと、動物さんが魔獣になったり、人間が魔族になったり…」
「ええ、そうね。だからゆめちゃんが世界中の瘴気を祓って、瘴気のせいで狂ってしまった魔族の王を浄化してあげることでみんなが幸せになるのよ。魔族の王はきっと、魔族の国を元の人間の国に戻したゆめちゃんに感謝してくれるわ。世界中の人もきっと、ゆめちゃんに感謝するわ。だから頑張りましょう」
「うん!それで、その攻略対象者?って人たちのことだけど…」
「多分色々面倒だから、関わらない方がいいわ」
「みんな、見た目と能力の高さはすごいけど、内面がコンプレックスまみれなんだもんね…」
「ええ、そうなのよ…」
そう、なにせこの乙女ゲームの世界…所謂ヤンデレ乙女ゲーなのだ。
ヤンデレばっかりだ。
純粋なゆめちゃんに攻略対象者と会わせるわけには行かない。
わたくしの方はといえば、見事にヤンデレ王太子に見初められて溺愛系ヤンデレを発動されているが。
だからわたくしが旅に出るとなった時もそれはもう反対されたものだ。
わたくしはこの世界で前世の記憶を取り戻してすぐ、能力を上げて、知識を増やし、魔術を学び、体も鍛え、誰にでも優しく接してきた。
そんなわたくしを王太子殿下は深く深く愛してくださっている。
他にも乙女ゲームの設定と違い、わたくしは家族にも使用人にも領民たちにも愛されており、貴族社会でも人気者。
優秀なわたくしは国王陛下や王妃殿下にも気に入られている。
だからこそ聖女であるゆめちゃんの後見人兼旅の同行者になれたのだけど、だからこそ王太子殿下は旅に出るのに今でも反対していて…正直ちょっと面倒くさいが、愛されている実感は感じてちょっと幸せ。
だがだからこそ、王太子殿下はわたくしにゾッコンだから良いにしても他の攻略対象者とゆめちゃんを会わせるわけに行かないのだ。
心中狙い系ヤンデレとかも普通にいるから!
「お姉ちゃん、変なお兄ちゃんたちから守ってくれてありがとう!」
「どういたしまして、ゆめちゃん。ゆめちゃんの方は、本編通り聖女として連れてこられたのよね…」
「本編通り…なのかは知らないけど、そうだね」
ゆめちゃんは、聖女として覚醒して教会に引き取られた。
そこで両親からの虐待も発覚して、正式に聖王猊下の養女となったのだ。
「ゆめちゃん、頑張って世界を救いましょうね!」
「そうだね!」
「帰ってきたら美味しいものをいっぱい二人で食べましょう!」
「うん、楽しみ!よろしくね、お姉ちゃん!」
「うん!」
こうして乙女ゲームは幕を上げた。
幕を上げたが男性キャラと一切関わらない方向に行った。
そしてわたくしとゆめちゃんは女騎士数人を伴い救世の旅に出た。
そして旅の途中途中で瘴気を祓って、人々を助け、ゆめちゃんは巫女姫、聖女様などと呼ばれて世界各地で感謝されまくった。
純真で無垢なゆめちゃんのファンになる者も非常に多い。
瘴気で魔族化した人々も、ゆめちゃんの力で次々と人間に戻る。
そして旅の本来の目的であった魔王は早々に瘴気を祓われて、魔族の国は元の人間の国に戻り、色々魔族だった頃の賠償には追われているものの復興の道を歩んでいる。
その後は帰りながらまた瘴気を浄化しつつ、各国の美味しい物を食べて回った。食べ物のためだけに寄り道しまくって帰ってきたのだが、それは誰にもバレず怒られることはなかった。
救済の旅から帰ってきてみると、ゆめちゃんの可愛らしさが貴族の子女にも広まっていた。
ゆめちゃんのファンの多いこと多いこと。
そんなゆめちゃんの後見人であるわたくしはみんなから羨ましがられる。
「見て!ゆめ様とメイヴ様よ!」
「きゃー!お二人とも可愛くてお美しい!」
ゆめちゃん効果もあり、元々貴族社会で人気者だったこともあって、わたくしのファンも日々増える。
王太子殿下はそんなわたくしのファンたちによくわかってるじゃないかとわたくしのことを語らって回っているらしい。
…ちょっと恥ずかしいからやめてほしいけど。
そんなわたくしと王太子殿下の仲睦まじさはそれはもう有名で。
他の貴族のカップルも、みんなわたくしと王太子殿下の仲睦まじさに憧れて次々と距離を縮め、大抵のカップルはお互い上手く行き出した。
それは攻略対象者たちも同じで、それぞれの婚約者たちと攻略対象者たちはゲームの設定と違い仲良くなった。
ヤンデレ属性は、残念ながら消えなかったけど…それぞれのルートで悪役令嬢になるはずだった仲間たちは、みんなそんな攻略対象者たちと上手く付き合っているらしい。
攻略対象は余りがいなくなったが、ゆめちゃんは自分の恋愛対象が居なくなってもわかっておらず、無邪気に笑っていた。
だがそんな彼女にも、春が来た。
元魔国…現在は人間の国に戻ったアルビオン皇国。
その国王、マクスウェル。
彼は、本来攻略対象ではない。
しかし彼は魔国となってしまっていた国を救ってくれたゆめちゃんの功績を心から称賛して、彼女を欲した。
マクスウェルから婚約を申し込まれたゆめちゃんの返事は…。
「アルビオン皇国に嫁いでも、お姉ちゃんと仲良くしてて良いならいいよ!」
わたくしは心底マクスウェル陛下に羨ましがられた。
そして彼女達は、無事婚約してその一年後に結婚した。
そしてさらにその半年後…わたくしと王太子殿下も結婚した。
今では我が国とアルビオン皇国は良好な関係を築いている。
全部ゆめちゃんのおかげだ。
「お姉ちゃん!お姉ちゃんと一緒にいるのがゆめは一番幸せ!」
「ええ、そうね。わたくしも、ゆめちゃんと一緒にいる時がすごく幸せだわ」
いまやゆめちゃんはわたくしの大親友兼妹分。
彼女を初めて知った時は悲しみが勝ったが、彼女が彼女で本当によかったと今は思う。
「ね、わたくしたち、これからもずっと仲良くしましょうね」
「うん、お姉ちゃん大好き!」
こうしてわたくしたちは、ハッピーエンドを手に入れた。
なお溺愛系ヤンデレ王太子である我が夫は、ゆめちゃんに嫉妬しつつも話がわかるじゃないかとわたくしの自慢話できゃっきゃっうふふしてマクスウェルに嫉妬されることもしばしばあるが会話内容が内容なだけにまあそうだよなと放置される。
わたくしはこの現状をどう思えばいいのだろうか。
中身は幼女、見た目は可憐な少女の聖女様。
中身は普通のオタク、見た目は氷の美女な悪役令嬢。
二人が仲睦まじくしてたら、そりゃあ絵になるよね。
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