1-6 村での相談と今後の決断
家の扉を開くと、温かな灯りが部屋を照らしていた。マーサの夫と数人の村人が中にいた。こちらを待っていたようだ。
「……戻ったか」
マーサの夫が穏やかながらもどこか慎重な声で言う。
「で、どうだった?」
ルイナは一度深く息を吸い、ゆっくりと口を開いた。
「……魔力量が、高すぎるって言われました」
その瞬間、部屋の空気がわずかに張り詰めた。
「……そうか…」
マーサも腕を組み、少し考え込むように頷いている。
「そりゃあ……やっぱり、な……」
村人のひとりがぽつりと呟く。
「……お前さん、貴族の娘ってわけじゃねぇんだろ?」
ルイナは小さく首を振る。
「違います」
「……だよな」
村人たちは、互いに視線を交わし、なんとも言えない表情を浮かべた。
「神殿に報告されるってことは、もうあんたは放っておかれないってことさ」
マーサの言葉に、ルイナはぎゅっと手を握る。
「……それって?」
「神殿が何をするかは分からねぇが、庶民が異常な魔力量を持ってるなんて、あっちが黙って見過ごすとも思えねぇ……」
「もしあんたが貴族の娘だったら、話は違うんだろうけどね」
マーサはそう言いながら、苦々しげに肩をすくめた。
ルイナは、じわりと理解し始めていた。
この世界では、貴族でないのに強すぎる魔力を持つ者は、異端とされる。
その理由は、恐らく「制御できないものを管理しなければならない」という考えが根付いているからなのだろう。
だからこそ、神殿への報告がなされる。
それは庇護されることを意味するのか、それとも監視されることを意味するのか――ルイナにはまだ分からなかった。
「このまま村にいてもいいんだぜ?」
不意に、村人がぽつりと言った。
「お前さんが村で大人しくしてれば、別に誰も文句は言わねぇさ」
「……でも、もしこのことがどこかから神殿に漏れたら……?」
ルイナの呟きに、部屋の空気が静まる。
「……あたしらも、神殿や貴族にいい思い出なんかないからねぇ」
マーサが低く呟く。
「ま、あいつらに関わるのは気に食わねぇが……あんたがどうするかは、あんたが決めることだ」
ルイナはその言葉を噛み締める。
村人たちは決して、ルイナを異質な目で見ているわけではない。
むしろ、彼らはルイナを守りたいのだ。
だが、神殿に目をつけられた者を守ることは、村にとっても大きな負担となる。
ルイナがここにいることで、村に迷惑をかける可能性がある――それが、一番の問題なのだ。
ルイナは静かに目を閉じた。
(スオリス……私はどうすればいい?)
胸元のペンダントに意識を向けると、スオリスの落ち着いた声が響く。
『ルイナが決めることよ。でも、村の人たちの気持ちを考えたら……』
(……神殿に行ったほうがいい、かな)
『少なくとも、神殿がどんな対応をするのか、自分で確認する必要はあるわね』
ルイナは考え込んだ。
神殿がどんな場所なのか。
自分がそこでどう扱われるのか。
何も分からないまま、飛び込んでいくのは危険だ。
だが、ここにいることで村に負担をかけるわけにもいかない。
「……神殿へ行こうと思います」
ルイナは、はっきりと告げた。
その言葉に、マーサが静かに頷いた。
「……そうかい」
村人たちも、「それが一番いいかもしれねぇな」と納得する。
マーサは少し考えた後、ルイナに向き直った。
「ただし、向こうがどう出るか分からない。だから、神殿のことをよく知ってる人に話を聞いてからにしな」
ルイナがゆっくり頷くと、ペンダントの中のスオリスが優しく囁く。
『情報を集めて、慎重に行動する……賛成よ』
そして、スオリスはいつもの調子で明るく言った。
『どこへ行っても大丈夫よ! このあたしが付いてるんだから!』
ルイナの胸が、じんわりと温かくなる。
(……そうだよね。スオリスがいてくれる)
どこへ行っても、スオリスは味方でいてくれる。
それだけで、少し前向きな気持ちになれた。
こうして、ルイナは神殿へ行く決意を固めたのだった。




