1-5 契約の確認とルイナの魔力測定
窓から差し込む朝の光が、静かに部屋を照らしていた。
木の梁の天井、質素だが温かみのある家具、窓の外から聞こえる鶏の鳴き声。
――ルイナがこの村に来て、すでに一週間が経っていた。
(……まるで、本当にここで暮らしていたみたい)
最初は戸惑いの連続だったが、マーサや村人たちの優しさに支えられ、今ではこの村の生活に少しずつ馴染んできた。
マーサが嫁いだ娘の服を貸してくれたおかげで、見知らぬ衣服に戸惑うこともなくなった。起き上がれるようになってからは、泊めてもらっているお礼に家事を手伝い始めた。
特に料理は、大評判だった。
「ルイナの作る料理は、なんだか不思議と美味しいねぇ」
マーサにそう言われたときは、ちょっと誇らしかった。異世界の調味料や素材にはまだ慣れないけれど、持ち前の工夫でなんとか形にしていた。
それでも――。
(……この世界に、馴染めるのかな)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
魔法があって、魔物がいて、貴族と庶民の階級制度が存在する――そんな世界。
夢みたいなファンタジーの世界に来てしまったんだ、と改めて実感する。
そして、何より。
(私……スオリスと、本当に契約しちゃったんだよね……)
無意識に、胸元のペンダントに手を添える。
その瞬間、ペンダントがかすかに光った。
――スオリスが目を覚ましたのだ。
「んぅ……ルイナ……?」
ぼんやりとした声が頭の中に響く。
スオリスは、ペンダントの中にいる間も意識を通じることができるらしい。とはいえ、まだ完全に回復していないらしく、声は少し眠たそうだった。
「ふぁぁ……やっと呼んでくれたのね……」
「ごめん、スオリス。……少し、話したいことがあるの」
「……うん、いいわよ」
ペンダントの光が少しだけ強くなる。
「ねえ、私たち……本当に契約、したの?」
ルイナの問いに、スオリスは静かに息をついた。
「……うん。でも、やっぱり普通の契約とは違う気がするの」
「普通の契約?」
「精霊や妖精と人間の契約は、本来、双方の合意が必要なの。契約の儀式をして、互いの意思を確かめた上で結ばれるものなのよ。でも、私たちは気づいたら繋がっていた……」
「……じゃあ、無意識のうちに……?」
ルイナは胸元に手を当てる。確かに、魔力の波動を感じる。
「そう。でも、私もまだ全部は理解できていないの」
スオリスの声には、不安が滲んでいた。
「……どうすればいいの?」
「……とにかく、詳しい人に相談したほうがいいわ」
スオリスがそう言った、そのときだった。
コンコンッ
扉をノックする音が響く。
ルイナが顔を上げると、マーサの声が聞こえてきた。
「ルイナ、起きてるかい?」
「あ、はい!」
ルイナが答えると、マーサが部屋の扉を開けて入ってきた。
「おはよう。今日もいい天気だよ」
「おはようございます、マーサさん」
「……そろそろ、教会へ行ってみるかい?」
その言葉に、ルイナは少し驚いた。
「教会……ですか?」
「うん、アンタもそろそろ元気になったし、神父様に挨拶がてら、魔力の測定でもしてもらうといいかもしれないね」
魔力の測定――。
ルイナはスオリスと視線を交わす。
「……ルイナ、これはいい機会よ。私たちのことを知るためにもね」
スオリスの言葉に、ルイナは小さく頷いた。
「……分かりました。行ってみます」
マーサが満足そうに微笑む。
「そうかい、それじゃあ支度をしな」
こうして、ルイナは村の教会へ向かうことになった――。
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教会は村の外れにある、小さな石造りの建物だった。
中に入ると、静かな空気が広がり、優しい香のするろうそくの火がゆらめいている。
朝の御祈りに来たのか、先客もいるようだ。
祭壇の前にいた初老の男性――神父が、ルイナたちに気づいて振り返った。
「やあ、マーサ。それに……」
「神父様、この子はルイナ。今、うちに泊まってる娘さ。魔力測定をお願いしたくてね」
「ああ、話は聞いているよ。魔力測定だな。そこの魔力石に手をかざしてごらん」
神父が示したのは、淡い青色の魔力石だった。
ルイナは少し緊張しながら、そっと手をかざす。
すると――
パァァァァッ!!
魔力石が、眩しいほどの輝きを放った。
「なっ……!?」
神父の目が見開かれる。
「これは……普通の魔力量ではない……!」
スオリスも驚愕の声を上げる。
「ルイナ……まさか……」
ルイナ自身も、何が起こったのか分からなかった。
――けれど、はっきりと理解した。
自分の魔力量は、明らかに異常なのだ、と。
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しばらくの沈黙の後、神父が口を開いた。
「……これは、神殿に報告するべきかもしれないな……」
その言葉に、ルイナの胸がざわつく。
「神殿に……?」
マーサも表情を曇らせる。
「そりゃあ、そうなるよなぁ……」「でも、神殿に知られたら……」
村人たちは、ルイナを気の毒そうに見つめていた。
(……どうして、そんな風に……?)
ルイナはまだ、この世界の“本当の常識”を知らなかった。
――ただ、これが自分にとって、何か大きな転機になる気がした。




