1-4 契約の発覚と村での目覚め 後編
ルイナの心臓が早鐘のように打ち始める。
(……私が、スオリスと契約……?)
契約といえば、昨日スオリスが言っていた『契約者しか見えない』という話を思い出す。
「でも、私、何もしてないのに……」
「……それが、おかしいのよ。普通、契約は互いの承認が必要なの。なのに、私は気づいたら契約の証が刻まれていた……」
「証……?」
ルイナは、無意識に胸元に手を当てる。そこに浮かび上がる微かな魔力の波動。
「もしかして……私が無意識のうちに……?」
「……ルイナ、私もまだ全部は理解できていない。でも、この契約が普通じゃないことだけは確かよ」
スオリスの声には、不安と戸惑いが滲んでいた。
「……どうすればいいの?」
「……とにかく、詳しい人に相談したほうがいいわ」
そうスオリスが言った、その時だった。
コンコンッ
扉をノックする音が響いた。
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「おや、目が覚めたかい?」
扉が開き、部屋の入り口に立っていたのは、温かな雰囲気を纏った女性だった。
柔らかく結われた髪、優しい茶色の瞳。エプロンをつけた姿が、どこか家庭的な安心感を醸し出している。
「気分はどうだい?」
「あ……はい、大丈夫です……」
ルイナがゆっくりと身を起こすと、女性──マーサは満足げに頷いた。
「そりゃ良かった。あたしはマーサっていうんだ。あんた、うちの旦那たちが森の近くで倒れてるのを見つけてね。ここまで運んできたのさ」
「……助けてくれて、ありがとうございます、えと…マーサ、さん。私はルイナといいます」
ルイナが丁寧に礼を言うと、マーサは目を瞬かせた後、くすっと笑った。
「へぇ……礼儀正しいねぇ。最近の若い子は、もっと横柄かと思ってたけど」
ルイナは少し戸惑ったように笑う。
マーサはそんなルイナの様子をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。
「……アンタ、どこのお嬢さんなんだい?」
その言葉に、ルイナはわずかに息を呑んだ。
(……私は、一体……何者なんだろう?)
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マーサはルイナの表情をじっと観察していた。
「……あんたさ、変なことを聞くようだけど、魔法が使えたりはしないかい?」
「……え?」
ルイナは思わず目を瞬かせる。
「うちの旦那たちがね、言ってたのさ。アンタが見つかった場所の周り、妙に空気が澄んでたって。何か、普通じゃないことが起きてたんじゃないかってね」
「……普通じゃないこと……?」
ルイナは、昨夜の出来事を思い返すが…
(スオリスと少し話したあと、気分が悪くなって……だめだ、まったく記憶がない)
「…………」
「まぁ、ただの勘違いならそれでいいんだけどね。もし何か心当たりがあるなら、教会の神父様に話してみるといいさ」
「教会……」
「そう。ここから少し行ったところに、小さな教会があるんだよ。村の神父様がいるから、何か相談すれば力になってくれるかもしれないね」
教会。
(……神父様がいるなら、何か分かるかもしれない)
ルイナは考え込む。
スオリスとの契約。自分の魔力。普通じゃない状況――
答えを求めるなら、誰かに聞くしかない。
「でも、そんなに急がなくていいさ。今はまず、ゆっくり休みな」
マーサが優しく微笑んで、ルイナの肩をぽんっと叩いた。
「お腹は空いてるかい?朝ごはんを用意してあるから、食べて少し落ち着くといいよ」
その温かい言葉に、ルイナの胸がじんわりと温かくなる。
(……優しいな、この人)
マーサに助けられたことを、改めて実感した。
「はい、いただきます。ありがとうございます、マーサさん」
「ふふっ、いいのさ。あたしは困ってる人を放っとけない性格だからね」
マーサの優しさに、ルイナはほんの少しだけ笑顔を浮かべた――。




