6-3 勉強会
ルイナは、目の前の書類を見て絶句した。
ギルドの応接室には、試験官を務める職員が数人。机の上には、試験範囲を記した書類が並べられていた。
「筆記試験では『魔法理論』『魔物学』『冒険者規則』の基礎知識を問う。実技試験では、実際の戦闘能力を測るため、指定された魔物を討伐してもらうことになる」
ギルド職員が淡々と説明する。
「……結構、範囲が広いんですね」
ルイナが呟いた。軽い気持ちで受けるには、なかなか大変そうだ。特に筆記試験。実技には自信があるが、知識を問われるのは少し不安だった。
「まあ、筆記はそこまで難しくない。基礎を理解していれば問題ないだろう」
ルークが言うが、ルイナにはその「基礎」がどれほどのものなのか、まだ分からない。
「……これ、神殿の授業みたい……」
ぽつりと漏らした言葉に、ルークがわずかに視線を向けた。
「神殿よりも、より実践向けの内容が多い」
「それって、つまり……?」
「要は、間違えると死ぬような場面で役立つ知識が出るってことだ」
「えぇ……」
ルイナは思わず呻いた。いくら実践的とはいえ、「間違えたら死ぬ」は勘弁してほしい。
「俺が教える」
その一言に、ルイナはぱっと顔を上げた。
「えっ、いいの!?」
「当然だ」
そう言ったルークの表情は変わらない。でも、その言葉がどこか頼もしく感じられて、ルイナの胸の奥が少し温かくなった。
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「まずは基礎からだ」
ギルドの宿泊室。机の上には、筆記試験用の資料が並べられている。
ルークは淡々と説明を始めた。
「魔法理論の基本は、魔力の流れとその制御方法だ。どの魔法も、適切な魔力の運用によって安定して発動できる」
「えっと……つまり?」
「魔法を使う際、魔力がどのように動くかを正しく理解することが重要だ、ということだ」
ルイナは資料を見つめながら考える。
(……なんか、これ、聞いたことあるような……)
思い出すのは、神殿での訓練の記憶。
ルークは神殿にいた頃、ルイナに魔法の指導をしていた。その頃の彼は、冷静で、無駄のない言葉を選び、感情を表に出すことはなかった。
「神殿にいた時もこうやって私に教えてくれたよね」
ルークが一瞬、動きを止める。
「……ああ」
彼の表情がわずかに陰った。
(昔のルークは冷たくて、いつも淡々としてた。でも、今のルークは……)
「……悪かった」
低く呟くように言ったルークの声に、ルイナは驚いたように目を瞬かせる。
「えっ?」
「お前にとって、あの頃の俺は……ただ命令するだけの存在だっただろう」
ルークの瞳が、真っ直ぐにルイナを見つめる。
「……今度こそ、お前が理解できるように、ちゃんと教える」
その言葉に、ルイナの胸が少し熱くなった。
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「ここは……こう?」
ルイナは紙の上にペンを走らせる。しかし、どうにも正解が分からない。
「違う、ここはこう考える」
ルークがルイナの隣に寄り、手元を覗き込む。そして、彼の指がそっとルイナの手を導いた。
「分かるまで、何度でも教える」
耳元で囁くような低い声に、ルイナの心臓が跳ね上がる。
「ちょっと!? 近すぎでしょ!?」
スオリスがツッコミを入れる。
「確かに、効率的に教えるにはこのくらいの距離が必要だ」
ノクスが冷静に補足すると、スオリスが絶句した。
「嘘でしょ!?」
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ルイナとルークのやり取りを、ノクスはじっと見ていた。
「……神殿か」
ぽつりと呟く。
「私は、その時間を知らないからな」
その言葉に、ルイナとルークがふと彼を見た。
ノクスは目を伏せている。
「……」
スオリスが、じっとノクスを見つめる。
「ノクスがいなかった時間があったってだけ。これから埋めればいいじゃん?」
その一言に、ノクスはゆっくりとスオリスを見つめた。
そして、優しく抱き寄せる。
「……そうだな。なら、これから埋めよう」
「お、重い!!いや、ちょっと!?」
ルイナとルークが微笑ましくそれを見守る中、スオリスの必死の抗議が響き渡った。
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