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6-2 無自覚と特例

ギルドの食堂には、昼を過ぎても多くの冒険者が集まり、賑やかな声が飛び交っていた。食事を摂る者、仲間と談笑する者、次の依頼について相談する者——それぞれが自由に過ごす活気に満ちた空間だ。


ルイナは、スオリスと共に隅の席に座っていた。目の前の皿には温かいシチューと焼きたてのパン。ほどよくスパイスが効いた香りが鼻をくすぐり、食欲をそそる。スオリスは湯気の立つスープに興味津々の表情を浮かべながら、小さなスプーンを手に取っていた。


「ルイナ、これ美味しそうだね!」


「うん。ここの料理は結構しっかりしてるよね」


穏やかなひとときだった。ルークは、食堂の奥でギルドの職員と話しており、今は少し離れている。彼女は食事をしながら、のんびりとスオリスと会話を楽しんでいた。


しかし——


「なぁ、姉ちゃん。一人か?」


突然の声に、ルイナはスプーンを持つ手を止めた。視線を上げると、短髪の男がにやりと笑いながら立っている。装備を見る限り、それなりに場数を踏んでいる冒険者のようだ。


「え……?」


「俺と組まねぇか? Fランクだろ? こんなとこで一人で飯食ってるってことは、まだパーティーも決まってねぇんだろ?」


男は気軽な調子で言うが、ルイナは僅かに眉をひそめた。すでにルークと共に行動しているため、パーティーに関して悩むことはない。だが、こうも唐突に誘われることに、少し戸惑いを覚えた。


「えっと……」


やんわりと断ろうとした、その時だった。


「離れろ」


低く、冷ややかな声が響いた。


次の瞬間、何の迷いもなく、ルイナの肩が引き寄せられる。ルークだった。いつの間にか戻ってきており、男の手がルイナの肩に触れるより早く、彼女を自身のもとへと引き寄せていた。その動作に余計な力はないが、絶対的な支配力があった。


ルイナは一瞬、驚きに息をのむ。


男もまた、ルークの気迫に動きを止めていた。


「……は?」


戸惑いを滲ませる男に、ルークは静かに告げる。


「こいつは、俺のパートナーだ」


淡々とした口調だった。しかし、その一言が放つ圧力は計り知れない。まるでそれが 当然の事実 であり、疑問の余地すらないかのように。


男は一瞬怯んだように目を逸らし、「そ、そうかよ……悪かったな」と呟いて、足早にその場を去っていった。


ルイナはまだ状況を飲み込めずにいた。ふと肩に感じる手の温もりに気づき、思わず顔を上げる。ルークの表情は変わらず冷静そのものだったが、どこか淡く、不機嫌そうな気配が漂っていた。


「……」


「……無自覚こわぁ」


沈黙を破ったのはスオリスだった。彼女は口元を押さえながら、くすくすと笑っている。


「ふむ……興味深いな」


ノクスもまた、意味深にルークを観察していた。


「な、何が?」


「いやぁ、なんていうか……すっごく独占欲強いなーって」


「……っ」


ルイナの頬が熱くなる。けれど、ルークは 「何のことだ?」 とでも言いたげに首を傾げるだけだった。その姿がまた、無自覚さを強調しているようで、ルイナはますます混乱するしかなかった。


──そして、そんな騒動の直後にギルドの受付で持ち上がったのが、特例昇級試験の話だった。



---


「君たち、明らかにFランクの実力じゃないよな?」


受付のカウンター越しに、ギルド職員が軽く肩をすくめながら言う。彼の視線はルイナとルークを交互に見つめていた。


「えっ!? もう!?」


ルイナは驚いた。ギルドに登録してから、まだそんなに経っていない。昇級試験なんて、もっと後の話だと思っていた。


「当然だな」


ルークの反応は、あまりにもあっさりしていた。むしろ「今までFランクだったことのほうが不自然」と言わんばかりの態度だ。


「でも……普通の昇級試験じゃないんだ」


ギルド職員は顎に手を添えながら続ける。


「通常なら、D→C→Bと段階的に上がるんだけど、君たちには F→C、もしくはB への特例試験を受けてもらう」


「特例……?」


「実力が明らかにFランクを超えている冒険者には、ギルド側が試験を課してランクを引き上げる制度があるんだ。ただし、特例だから通常よりも厳しい」


「どんな試験内容なんですか?」


「筆記と実技の両方だな。筆記ではギルドの規則、依頼の処理、魔物の特性について問う。実技では、実戦形式の戦闘をしてもらう」


「筆記試験……」


ルイナは若干、不安そうな表情を浮かべる。異世界に来たばかりで、ギルドの仕組みや魔物の知識を完全に把握しているわけではない。ルークが大丈夫なのは分かっていたが、彼女にとっては少しハードルが高い。


「俺は問題ない。お前は覚えるだけだ」


ルークは当然のように言う。


「そ、それが難しいんだけど……」


「なら、一緒に勉強すればいいじゃない?」


スオリスがさらっと言う。ルイナははっと顔を上げた。


「それなら頑張る!」


すぐに前向きに切り替えられるのが、ルイナのいいところだった。


「実技の方もある。お前には実戦形式で訓練が必要だな」


ノクスが冷静に言う。


「……悪くないな」


ルークが頷く。


「えっ!? 何その流れ!!?」


ルイナの抗議は、当然のように聞き流された。


こうして、彼女はルークとノクスの 「特訓」を受けることになるのだった——。



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