5-7 水の迷宮
ギルドの喧騒が少し落ち着いた頃、ルイナたちは掲示板を眺めていた。先ほどの依頼報告を終えたばかりだが、新たな仕事を探している。
「ダンジョン探索!?ファンタジーすぎる!!」
ルイナは目を輝かせながら、ひときわ大きく掲示された依頼書に見入っていた。その紙には、こう書かれている。
> 《水の迷宮》調査依頼
近郊の水の迷宮で魔物の活性化を確認。調査及び討伐を依頼する。
「迷宮……古代遺跡のようなものか」
ルークが淡々と読み上げる。彼の声には興奮の色はないが、興味がないわけではなさそうだ。
「ふ〜ん、水の迷宮ねぇ。ちょっと響きがいい感じじゃない?」
スオリスは腕を組みながら呟く。その横でノクスが静かに依頼書を眺めていた。
「……迷宮、か。精霊の古き記憶に関わるものかもしれんな」
ノクスの言葉に、ルイナが驚いたように顔を上げる。
「えっ、何か知ってるの!?」
「……いや、ただそういう気がしただけだ」
ノクスは淡々と答えるが、その声には微かな引っかかりがあった。ルイナはその違和感を感じつつも、探索への期待が勝ったのか、満面の笑みを浮かべる。
「もう行くしかないっ!!」
ルークは深く息をつくが、ルイナが楽しそうなので止めることはしなかった。
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翌日、迷宮の入り口は、森の奥深くにあった。周囲の空気はひんやりとしており、静寂の中に微かな水音が響いている。
入り口の門には、古びた石碑が建っていた。長い年月を経たそれには、薄く刻まれた文字が確認できる。
「これは……古代語か?」
ルークが手をかざして文字をなぞる。ルイナが興味津々で覗き込むが、意味はわからないようだ。
「ふむ……これが水の迷宮か」
ノクスが小さく呟く。
ノクスは目を閉じ、石碑に手を触れる。その仕草は何かを思い出そうとしているようだった。
「……記憶の断片が、ここにあるような気がする」
ノクスの静かな言葉に、スオリスも少し険しい顔をする。
「……アタシも、何か……ちょっと変な感じがする……」
「変な感じ?」
「うん……なんか、引っかかるような、懐かしいような……」
スオリスの言葉に、ルイナも一瞬考え込む。しかし、今は先へ進むしかない。
「とにかく、行ってみよう!」
ルイナが迷いを振り払うように声を上げ、先へと進んだ。
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迷宮の中は、幻想的な光景だった。水が壁を伝い、床には薄く水が張っている。青白い光がほのかに揺らめき、まるで水中にいるかのような錯覚を覚える。
「わぁ〜……なんかゲームに出てきそうな感じ!!!」
ルイナの興奮した声が響く。
「はしゃぐな。ここは魔物の巣だ」
ルークが鋭い視線を周囲に巡らせる。
「まぁまぁ、ちょっとくらい楽しんでもいいじゃん!」
スオリスがルークの周りをふわっと舞う。
ノクスは何かを感じ取るように、壁の模様をじっと見つめていた。
「……何か懐かしい気がする」
「またか」
ルークが呆れたように呟く。
「……私は、以前ここに来たのかもしれない」
「えっ……?」
ルイナが思わず息をのむ。しかし、ノクス自身もはっきりとは分かっていないようだった。
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迷宮を進むと、目の前に大きな水流が現れた。それは川のように流れ、行く手を阻んでいる。
「……ここを渡らないと、先には進めないね」
ルイナがうーん…と腕を組んで考え込む。
ふと天井を見上げると、川の絵のようなものが描いてある。
「なるほど……水流を変えれば道が開くのか」
ルークが周囲を観察する。壁にはいくつかの小さな穴があり、水がそこから流れ込んでいる。
「どうする?」
ルークが尋ねると、スオリスが前に出る。
「アタシの魔法で水を動かしてみる!」
スオリスが両手を上げると、水の流れがふわりと揺らぎ始めた。そのまま水が左右に分かれ、新しい通路が現れる。
「やった!」
ルイナが嬉しそうに声を上げる。
「ふむ、貴様らの協力があれば、難しくはないな」
ノクスが淡々と呟く。
「すごいすごい!!こういうの本当に楽しい!!」
ルイナの声には、本当に心からの楽しさが込められていた。
ルークはそんな彼女をちらりと見た後、何も言わずに前へ進んだ。
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次の部屋へ入ると、壁に奇妙な模様が刻まれていた。それは何かを示しているように見える。
「……これ、どこかで見たことあるような……?」
スオリスが近づいて模様を眺める。
「何か仕掛けがありそうだな」
ルークが慎重に周囲を見回す。
スオリスは、何かに導かれるように壁へ手を伸ばした。
「ちょっと待って……この魔力の流れ……」
その瞬間——
部屋が青白い光に包まれた。
「なっ……!?」
ルイナが目を見開く。スオリスの手から、微かに輝く光が溢れている。
「これ……」
スオリスが戸惑いながら、自分の手を見つめた。
「まさか……光の力……?」
ノクスが目を細める。
光の中、スオリスの記憶の奥深くで何かが目覚めようとしていた——。
(次回へ続く)




