5-3 精霊と策士の誤算
ギルドのカウンター前。
ルークは当然のようにルイナの隣に立ち、ギルドの依頼掲示板を見上げた。
「今日受ける依頼はどれだ?」
淡々とした声。まるでそれが当たり前かのように、彼はルイナの選択を待っている。
「え?えっと……薬草採取を受けようかなって……」
ルイナが戸惑いながらも答えると、ギルド受付の男がルークに向かって手を振った。
「お前は戦闘向きだろ。討伐クエストにしろ」
「…………。」
ルークの表情が固まる。いや、むしろ固まったのはルイナの方だった。
「ちょ、ちょっと!?ルークの自由は!?!?」
「Fランクの基本は簡単な戦闘!薬草採取の仕事なんて枠が限られてるんだよ。そもそも、採取系の仕事は体力や知識が必要だしな」
受付の男は当然だろと言わんばかりの態度だが、ルークは静かに反論した。
「なら、俺も薬草採取をやる」
「……あ?」
明らかに戸惑うギルド受付の男。横にいたルイナも「いやいやいや」と小声でツッコミを入れた。
「ルーク、私は大丈夫だから……」
「いや、魔物が出るかもしれない。一人は危険だ」
「だったら、討伐クエストで稼いで来い!」
「……薬草の群生地に魔物がいるかもしれないしな」
「…………。」
「だから、俺が同行する」
「……えぇぇ……」
受付の男が頭を抱える。ルイナも「いや、そういう理屈なの!?」と突っ込まずにはいられなかった。
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採取クエストのため、森の奥へと進む二人。
ルイナが草むらにしゃがみ込み、薬草を探している傍らで、ルークは周囲を警戒していた。
「えっと……じゃあ、ここの草を——」
「グルルル……!」
低く唸る声。ルイナが振り向いた瞬間、茂みから魔物が飛び出してきた。
「ルイナ!」
ルークが一瞬で間合いを詰め、剣を振るった。銀の軌跡が閃光のように走ると、魔物は地面に崩れ落ちた。
「はやっ!」
ルイナが目を丸くする。
スオリスがふわりとルイナの肩に降り立ち、腕を組んだ。
「護衛っていうか、もうただの討伐じゃない?」
「これくらい当然だ」
ルークは淡々と答えたが、ルイナは苦笑するしかなかった。
「でもすごく助かる……でね、薬草は根元から優しく摘み取るのが大事で——」
「グルルァァァ!!!」
突然、ルイナの背後から魔狼が飛びかかってきた。
「危ない!!!」
ルークが駆け出そうとする——その瞬間、ルイナが手を前に突き出した。
「大丈夫!スオリス!」
「任せて!!」
スオリスが光を纏いながら宙に舞い、眩い水の奔流が弾ける。
瞬間、妖精の姿から 精霊の姿 へと変化した。
ルークの足が止まる。
スオリスの髪は水面のように煌めき、透き通る青の輝きが全身を包んでいた。
「———!!」
ルークが何かを言いかけるより先に、スオリスの手元に無数の水の刃が生まれる。
「ふっ!」
軽く手を振ると、水の刃が魔狼の胴を貫いた。
「……やったぁ!」
ルイナが歓声を上げる。スオリスはふぅ、と息を吐きながら妖精の姿へと戻った。
「驚いた?アタシの本当の姿……のはず」
ルークは静かにスオリスを見つめていた。
「……お前、精霊の姿になれるのか」
「まぁね〜でもすぐ疲れるのよね〜」
スオリスがふわりとルイナの肩に戻る。
「…………。」
ルークは呆然と立ち尽くしていた。
(……俺が……守るって……言ったのに……)
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ルイナは嬉しそうに両手いっぱいの薬草を見せた。
「ほら!見てルーク!今日こんなに薬草取れたんだよ!」
ルークは静かにそれを見つめる。
「……。」
「ルークが魔物引き受けてくれたからすごい助かったよ!」
「……そうか、なら良かった」
スオリスがくすっと笑い、ルークの肩に降りた。
「……チョロ。」
ルークがじろっと睨むが、スオリスはどこ吹く風でくるくると舞っていた。
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「へぇーお前たち良いコンビじゃねーか!」
「ルイナちゃん、1人で活動してるし、パーティー組んだらどうだ?」
ルークがすぐに顔を上げる。
「パーティー?」
「数人で組んで行動するんだ。依頼の幅が広がるぜ」
「ぜひそうしてもらおう」
即答。
「え、ちょっと待って!?相談くらい——」
「当然の流れだろう?」
ルイナは「えぇぇぇ!?」と目を丸くしたが、次第に目を輝かせる。
(ま、まぁ、パーティーは……ファンタジーっぽいけど!!)
ギルド員がニヤリと笑った。
「明日早速依頼受けるか?この村の調査なんだけど——」
「村の調査?」
ルークの表情が僅かに曇る。
「……妙だな」
「え?」
「この手の依頼は、普通もう少し上のランクがやるはずだ」
「ははっ、まぁちょっと特殊でな……」
ルイナは不安そうに呟いた。
「……なんか不穏な感じ?」
そして——それはただの調査に留まらなかったーー




