表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/51

5-1 巡り合う時


自由都市の冒険者ギルド。


昼下がりの陽光が、窓から差し込む。酒と笑い声が入り混じる活気の中、一歩踏み入れた男の足取りは迷いなく、しかし微かに緊張を孕んでいた。




カウンターの端、依頼書を手にしている黒髪の少女。


少し俯き加減に視線を落とし、紙を指でなぞるようにして考え込んでいる。

表情は、真剣で、そしてどこか悩ましげだった。


ルークは静かに息を吸う。


心臓の鼓動が、僅かに速くなるのを感じた。


「ルイナ」


その名を呼ぶ。


期待が胸を満たしていく。


どんな顔をするだろう。

どんな声をかけてくれるだろう。


再会の瞬間。



彼女が振り向く。



その表情を見た瞬間、ルークの思考が一瞬止まった。


(……?)


思っていた反応と、違う。


驚き、戸惑い、そして——まるで亡霊でも見たような微妙な顔。


一瞬の沈黙。


ルイナの唇が、僅かに震える。


「……ルーク……?」


まるで幻を確かめるように、慎重に名を呼ぶ。


「本物……?」


ルークは困惑した。


「……???」


「ギルドに着いてから……神殿の噂を聞いて……」


ルイナの声が、震えていた。


「王国軍が攻め込んで……神殿の人間が、大量に処分されたって……」


「ああ……」


「……だって……テレビもないし……スマホもないし……ニュースなんてあるわけないし……っ」


言葉が次第に乱れ、感情が溢れていく。


「みんな、人づてに聞いた話ばかりで……だから、あなたももしかしてって……っ 私っ……」


彼女の肩が小さく揺れる。


ルークはゆっくりと、彼女の肩に手を置いた。


「落ち着け」


静かに、優しく。


ルイナの息が乱れていた。

目が揺れていた。


「神殿が制圧されたのは、本当だ」


その言葉に、彼女が僅かに息を呑む。


「神官長や、グレゴールも……処刑された」


「えっ……」


ルイナの唇が、震えた。


「私の……せい……? 逃げたから……?」


ルークは首を振る。


「違う」


その一言が、静かに、はっきりと響く。


「むしろ、いい機会だった。神殿の非人道的なやり方が露見した」


彼は決して言わない。

自分が何をされたかなど、伝えるつもりはなかった。


「まだ油断はできないが、王国の管理下で浄化中だ」


ルイナはゆっくりと、ルークの手の上にそっと自分の手を重ねた。


「……そう……本当に……あなたなのね……」


その声は、安心と安堵に満ちていた。


「良かった……無事で……本当に……良かった……」


目尻に、わずかに涙が滲む。


ルークの喉が、僅かに詰まる。


「ルイナ……」


呼びかける声が、自然と優しくなる。




——そして、その空気を……



「ちょっと! 二人だけで話さないでよ!!」


甲高い声が割り込んだ。


「アタシだって、心配してたんだからね!!」


ルークは瞬きをする。


「……居たのか」


淡々とした声に、スオリスがわなわなと震えた。


「なっ……!! ルークのくせに生意気!!」


「冗談だ」


ルークが小さく笑うと、スオリスは頬を膨らませた。


「ふんっ! そんなことより〜 いいの〜? さっきからみんな見てるけど〜?」


その言葉で、ルークとルイナはハッとした。


——ギルドの中が、妙に静かだった。


周囲の視線が、じっとこちらに集まっている。


「……」

「……」


ルイナが視線を彷徨わせる。


「しっ……喋れるとこ行こっか……」


ルークも一瞬だけ目を伏せ、すぐに頷く。


「……そうだな……」


スオリスは満足げに、ルークの肩にひょいっと飛び乗る。


「ざまみろ〜!」


小さな精霊の誇らしげな声を背に、ルークとルイナは静かにギルドを後にした。


感情の整理が、まだ追いつかないまま——。



---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ