5-1 巡り合う時
自由都市の冒険者ギルド。
昼下がりの陽光が、窓から差し込む。酒と笑い声が入り混じる活気の中、一歩踏み入れた男の足取りは迷いなく、しかし微かに緊張を孕んでいた。
カウンターの端、依頼書を手にしている黒髪の少女。
少し俯き加減に視線を落とし、紙を指でなぞるようにして考え込んでいる。
表情は、真剣で、そしてどこか悩ましげだった。
ルークは静かに息を吸う。
心臓の鼓動が、僅かに速くなるのを感じた。
「ルイナ」
その名を呼ぶ。
期待が胸を満たしていく。
どんな顔をするだろう。
どんな声をかけてくれるだろう。
再会の瞬間。
彼女が振り向く。
その表情を見た瞬間、ルークの思考が一瞬止まった。
(……?)
思っていた反応と、違う。
驚き、戸惑い、そして——まるで亡霊でも見たような微妙な顔。
一瞬の沈黙。
ルイナの唇が、僅かに震える。
「……ルーク……?」
まるで幻を確かめるように、慎重に名を呼ぶ。
「本物……?」
ルークは困惑した。
「……???」
「ギルドに着いてから……神殿の噂を聞いて……」
ルイナの声が、震えていた。
「王国軍が攻め込んで……神殿の人間が、大量に処分されたって……」
「ああ……」
「……だって……テレビもないし……スマホもないし……ニュースなんてあるわけないし……っ」
言葉が次第に乱れ、感情が溢れていく。
「みんな、人づてに聞いた話ばかりで……だから、あなたももしかしてって……っ 私っ……」
彼女の肩が小さく揺れる。
ルークはゆっくりと、彼女の肩に手を置いた。
「落ち着け」
静かに、優しく。
ルイナの息が乱れていた。
目が揺れていた。
「神殿が制圧されたのは、本当だ」
その言葉に、彼女が僅かに息を呑む。
「神官長や、グレゴールも……処刑された」
「えっ……」
ルイナの唇が、震えた。
「私の……せい……? 逃げたから……?」
ルークは首を振る。
「違う」
その一言が、静かに、はっきりと響く。
「むしろ、いい機会だった。神殿の非人道的なやり方が露見した」
彼は決して言わない。
自分が何をされたかなど、伝えるつもりはなかった。
「まだ油断はできないが、王国の管理下で浄化中だ」
ルイナはゆっくりと、ルークの手の上にそっと自分の手を重ねた。
「……そう……本当に……あなたなのね……」
その声は、安心と安堵に満ちていた。
「良かった……無事で……本当に……良かった……」
目尻に、わずかに涙が滲む。
ルークの喉が、僅かに詰まる。
「ルイナ……」
呼びかける声が、自然と優しくなる。
——そして、その空気を……
「ちょっと! 二人だけで話さないでよ!!」
甲高い声が割り込んだ。
「アタシだって、心配してたんだからね!!」
ルークは瞬きをする。
「……居たのか」
淡々とした声に、スオリスがわなわなと震えた。
「なっ……!! ルークのくせに生意気!!」
「冗談だ」
ルークが小さく笑うと、スオリスは頬を膨らませた。
「ふんっ! そんなことより〜 いいの〜? さっきからみんな見てるけど〜?」
その言葉で、ルークとルイナはハッとした。
——ギルドの中が、妙に静かだった。
周囲の視線が、じっとこちらに集まっている。
「……」
「……」
ルイナが視線を彷徨わせる。
「しっ……喋れるとこ行こっか……」
ルークも一瞬だけ目を伏せ、すぐに頷く。
「……そうだな……」
スオリスは満足げに、ルークの肩にひょいっと飛び乗る。
「ざまみろ〜!」
小さな精霊の誇らしげな声を背に、ルークとルイナは静かにギルドを後にした。
感情の整理が、まだ追いつかないまま——。
---




