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4-7 追憶の旅路



 旅路の空は晴れ渡っていた。


 ルークは馬を走らせながら、前方に広がる道を見据える。自由都市へ向かうにはいくつかの街や村を経由する必要があったが、できるだけ無駄な時間は省きたかった。宿泊は最低限、休憩も短時間で済ませ、最短で目的地へ辿り着くつもりだった。


(……一刻も早く、あいつに会わなくてはならない)


 そう思うほど、無意識に速度を上げる。しかし、立ち寄った村で聞いた言葉が、彼の足を止めた。



---


「いやぁ〜うちの村、井戸が枯れてたんだけどな?」


 水を汲みに来た村の男が、井戸を覗き込みながらルークに話しかけてきた。


「……それが?」


「たまたま立ち寄った旅の姉ちゃんが、水脈を見つけてくれてよ! おかげでまた水が使えるようになったんだ!」


 ルークは無言でその話を聞いた。


(……水脈を? そんなことができるのは……)


 何気なく村人たちの話を聞いていくと、特徴は——『異国風の黒髪の少女』。


 ルークの胸が、一瞬だけ締め付けられる。


(黒髪は珍しい……間違いない、ルイナだ)


 知らず知らずのうちに、口元が綻んでいた。わずかに顔を伏せ、その笑みを隠すように呟く。


「……お前は、どこへ行っても変わらないな」



---


 さらに先の街で、ルークは別の話を耳にした。


「この街、水路が詰まってて困ってたんだけどな」


 露店を営む商人が、何気なく話しかけてくる。


「通りすがりの女の子が、水魔法で一気に流してくれてさ!」


 ルークはまたしても無言になった。


「……そうか」


(助けるばかりで、自分のことは少しも考えていないだろうな)


 彼女らしい行動に、呆れつつもどこか温かいものを感じる。ルイナの姿を思い浮かべながら、彼は静かに馬の手綱を握った。



---


 さらに別の街——今度は、宿の主人からの話だった。


「ここ、病気が流行ってたんだけどな?」


「……病気?」


 ルークの表情がわずかに強張る。主人は続けた。


「変な女が現れてよ、『手洗い・うがい・井戸の水は沸かして飲むことを徹底しろ!』って言ってきてさ」


「……」


「最初は何言ってんだコイツって思ってたんだけど、やってるうちにみんなの調子が良くなってな。今じゃ当たり前にやってるよ!」


 主人は笑いながら言ったが、ルークの中には安堵と共に、強い感情が湧いていた。


(……無事でいてくれ)


 彼女の行動が正しかった証拠に、この街の人々は健康を取り戻している。しかし、こんなことばかりしていて、自分の身は大丈夫なのか——そんな考えが頭をよぎる。


(やれやれ……本当に、お前らしいな)


 胸の奥に広がる想いをそっと抱えながら、ルークは静かに歩を進めた。



---


「そんでうちの息子がその嬢ちゃん気に入ってさ!」


「……は?」


 唐突な言葉に、ルークは無意識に低い声を発していた。思わず振り返ると、男の後ろから小さな少年がひょこっと顔を出した。


「オレ、大人になったら姉ちゃんと結婚するんだ!」


 ルークの中で、何かが止まった。


「……なんだと?」


 思わず零れた声に、村の男は豪快に笑った。


「ははは!ガキの戯言よ!」


 しかし、ルークの目は笑っていなかった。



---


「兄ちゃん、あの姉ちゃんの知り合い? どんな関係?」


 少年の純粋な目が、ルークを真っ直ぐ見つめてくる。


 ルークは一瞬だけ言葉を探し、それから短く答えた。


「……再会を誓った仲だ」


 それは事実だった。しかし、言い方ひとつで印象は大きく変わる。少年は露骨に顔をしかめた。


「えー、決まった相手がいるのかよ」


「……決まった相手?」


 唐突に投げかけられた言葉に、ルークは微かに眉を寄せた。


「だから!恋人なんだろ!」


「っ! 違う!」


 反射的に否定した。否定したのに——心臓が妙にざわつく。


「はあ? わけ分かんねー」


 少年はつまらなさそうに肩をすくめると、宣言する。


「じゃーオレが姉ちゃん迎えに行くからな!」


「か……勝手にしろ!」


 なぜか妙に焦って、そう言い捨ててしまう。気づけば足早にその場を離れていた。



---


「ありゃー気付いてねーな」


「そうだな……」


 村人たちが、少年の無邪気な宣言を聞きながら苦笑する。


 一方でルークは、一人になってから考え込んでいた。


「……決まった相手?」


 思わず呟いた言葉が、胸の奥に妙に引っかかる。


(違う、と言った……だが、本当にそうか?)


 旅の目的は、ルイナに再会すること。彼女を守ること。それだけのはずだった。


 けれど——




 その答えを出すには、まだ時間が必要だった。



---


 彼女の足跡を追うたびに、心が温かくなる。


 しかし、同時に「会えない時間が寂しい」と思い始める。


 ルークは静かに空を仰ぎ、そして前を向いた。


(……早く……会いたい)


 そう思いながら、ルークの旅は続いていく。






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