4-6.5『実録!溺愛密着24時!!~エーベルフェルト公爵家・追放(準備)編~』
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屋敷に朝が訪れた。
一ヶ月前までは戦場のような緊迫した空気だったが、今は驚くほど穏やかだ。
鳥のさえずりが窓の外から聞こえ、柔らかな日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。
ルークは静かに目を開けた。
そして、ゆっくりと息を吐く。
「……完治、したな」
体に走る痛みも、熱もない。力も戻っている。
いよいよ、旅立ちの時だ。
そう思った瞬間——
ガチャリ
「ルーク、具合はどうだ!」
「……」
開口一番、父親の声が部屋に響いた。
「……父上、おはようございます」
「おお、おはよう!」
ルークは、一ヶ月の間でこのパターンに慣れてしまっていた。
傷の手当をする医者よりも、付きっきりだったのは父の方だった。
公爵としての業務があるはずなのに、どれだけ忙しくても必ず様子を見に来る。
執事が止めても、ミアが苦言を呈しても、一向に懲りる様子はなかった。
そして、今日も——
「公爵閣下、書類の山が……」
扉の外で控えていた執事の声が響く。
「ルークの様子を見に来た」
「昨日も来られました」
「何か問題があるか?」
「……いえ、ございません……」
「では、問題ないな」
……執事の肩が、僅かに落ちた。
もう日常茶飯事だ。
ルークは心の中で(申し訳ない)とだけ思って、そっと目を伏せた。
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「……さて、行こうか」
ルークは荷物をまとめ、旅支度を整えた。
基本的なものだけを持ち、できるだけ身軽に。
馬一頭あれば問題ない。
だが——
「?荷物が…増えている……?」
寝る前に整理したはずの荷物が、なぜか倍になっている。
そして部屋の外に出ると、使用人たちが総動員で、何やら忙しなく準備を進めていた。
……いや、これは貴族の遠征の規模では???
「父上、私は馬一頭あれば充分です」
「足りるか?」
「……はい」
「本当に?」
「本当に」
「そうか……ならば、せめて予備の馬を——」
「いりません」
「そうか……ならば、せめて護衛を——」
「いりません」
「そうか……ならば、せめて予備の装備と——」
「いりません」
「む……そうか……」
沈黙。
一瞬、納得したように見えたが——
「では、医薬品と非常食を——」
「それもいりません」
「む……」
納得する様子がない。
使用人たちは、大量の荷物を前にして困惑している。
薬、保存食、予備の衣類、旅費——
どれも過剰すぎる量だ。
「父上、これでは旅ではなく貴族の巡行です」
「安全を考えたら当然だ」
「私は旅をするのです」
「分かっている」
「…………」
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父の手元からはらりと落ちた1枚の紙
「父上、落としましーー!?」
✅ 医薬品 → 用意済み(異常な量)
✅ 非常食 → 貴族の豪華保存食が山積み
✅ 予備の衣類 → 10着以上
✅ 旅費 → 「貴族の旅行」レベルの金貨が入った袋
✅ 宿泊先リスト → 「馬小屋に泊まるなど言語道断!」
「ああ、すまん、ふむ…これとこれはよし、あとはーーそうだあれがーー」「父上……」
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パパ「旅の途中で困ったことがあったら、すぐに手紙を書け」
ルーク「はい、分かりました」
パパ「3日に一度は必ずだ!!」
ルーク「……3日?」
パパ「いや、毎日でもいい。寧ろ書け」
ルーク「自由とは………?」(哲学)
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ついに、旅立ちの時が来た。
馬にまたがり、屋敷の門へ向かう。
だが、その直前まで——
「護衛をつけてもいいんだぞ?」
「宿に困ったら手配するからな?」
「怪しい女には気をつけろ、ハニートラップには特にだ」
「やはり私も一緒にーー」
「行ってきます」
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執事「公爵閣下、そろそろ屋敷に戻られませんか」
パパ「いや、もう少し…もう少しだけ…あいつの姿が見えなくなるまで……」
ルークの後ろ姿が、小さくなっていく……
パパ 「……ルーク……絶対に、無事で帰ってこいよ……」(小声)
執事(……追放、とは)
パパ「……!そうだ、分家を作ってルークを当主に置けば良いのではないか…?ふむ…調べてみるか」
執事「……、…」




