1-2 少女との会話と異世界の認識
湖の水面が揺れ、淡く光る波紋が静かに広がっていく。
目の前の少女を見つめたまま、硬直していた。
透き通る銀色の髪、澄んだ青い瞳。ふわりと揺れる羽は光を帯びていて、まるで水滴が浮かんでいるかのようだった。
(……何? これ……)
現実離れしたその存在に、言葉が出てこない。
それなのに、彼女はまるで当然のように宙を漂いながら、こちらをじっと見つめていた。
「……あなた、誰?」
こちらがようやく問いかけると、少女はぴくりと小さく肩を揺らした。
驚いたように大きな瞳を瞬かせると、ふわりと近寄ってくる。
「……本当に、私が見えてるの?」
「うん……見えてる…けど…」
「えっ!? なんで!?」
少女はパタパタと羽ばたきながら、信じられないものを見るようにこちらの顔を覗き込んできた。
「普通、契約者にしか……そんなはず……」
(契約者……?)
知らない単語が耳に入り、違和感を覚えた。
「……契約者って、なに?」
「え? あ、えっと……精霊とか妖精が、誰かと結ぶ契約のこと。……でも、あなたと私は契約してないし……」
少女は眉を寄せ、小さく首をかしげた。
「私は、スオリス。……水の妖精……だった、はず」
その言葉に、思わず瞬きをする。
「妖精……?」
「そう。でも……どうして、あなたは私が見えるの?」
「そ…れは、私が聞きたいんだけどな……」
お互いに戸惑いながら、沈黙が流れる。
湖の波が静かに揺れ、柔らかな光がスオリスの周りを照らしていた。
その光景があまりに幻想的で、一瞬、これは夢なのではないかと思った。
(……夢? いや……)
自分の腕をつねってみる。
痛みが走る。
──夢じゃない。
深く息を吐き、ゆっくりと周囲を見渡した。
そこには見たことのない景色が広がっていた。
湖の水は透き通り、風が吹くたびに睡蓮の花びらが舞う。
遠くには木々が揺れ、どこか懐かしいような、でも確実に異質な香りが漂っている。
(……ここは、本当にどこ?)
ふと、自分の服装に目を向けた。
いつもの服ではない。
柔らかい白い布で仕立てられたワンピース。裾や袖口には繊細な刺繍が施され、軽やかながらも高級感がある。
身に覚えのない衣服に、思わず指先で布をつまんだ。
(……こんな上品な服着てたかな…)
次に、胸元にかかるペンダントに気づく。
青く透き通った、睡蓮のような宝石が揺れていた。
(……このペンダントも…私、持ってたっけ…?)
記憶を遡るが、思い出せない。
「……あなた、名前は?」
スオリスがふわりと近づき、尋ねる。
少し迷いながらも、ゆっくりと口を開いた。
「……ルイナ、ルイナ・アーデル」
そう口にした瞬間、違和感が走る。
(……苗字? そういえば、なんで私は苗字があるって知ってんだろう?)
けれど、それを考えるより先に――身体が、ふらりと揺れた。
「っ……?」
急に足元がふらつく。頭がぐらりと揺れ、視界が歪む。
(なに、これ……身体が……重い……?)
嫌な汗が背中ににじむ。吐き気がこみ上げ、足に力が入らない。
スオリスがぱっと表情を変えた。
「!! ちょっと待って、それって……!?」
どこか焦ったような声。
(……何? 何が……起こってるの?)
ルイナの意識が、ゆっくりと暗闇に落ちていった――。
主人公→ルイナ
妖精→スオリス




