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3-1 不満・前半



 静寂の中、厳かな祈りの声が響く。


 神殿の大広間。高くそびえる白亜の柱、色鮮やかなステンドグラスから差し込む光。そのすべてが神聖な空気を醸し出していた。


 神官たちは整然と並び、静かに頭を垂れている。その中央——ルイナもまた、神の御名を讃える言葉を口にしていた。


 ……とはいえ、祈りに集中しきれていない。


(……なんか、前より窮屈な気がする)


 違和感。最近、ずっとそれを感じていた。


 この儀式は、神殿での朝の日課のひとつ。毎朝、神に感謝を捧げ、聖女候補としての役割を確認する場。だが、今日の空気は、どこかいつもと違った。


 視線を感じる。


 静かなはずの広間。けれど、どこか「見張られている」ような感覚があった。


 ちらりと目を開け、そっと周囲を窺う。


 ——神官たちが、じっとこちらを見ていた。


 祈りを捧げるよりも、その目は何かを「観察」するように鋭く、冷静だった。


(え……なに、これ)


 心臓が、ひやりと冷える。


 すぐに神官たちは視線を逸らしたが、その一瞬で確信する。


 「前より、私を監視する目が増えている——」


 それだけではない。


 祈りの後、神官長がルイナの元へと歩み寄る。


「ルイナ様、今朝もお疲れ様でした」


「ありがとうございます」


 形式的な挨拶。だが、神官長の目はまるで何かを測るように鋭く、ルイナの手元へと落ちた。


「……やはり、魔力の安定が素晴らしいですね。驚異的です」


「え?」


「以前にも増して、神のご加護を受けておられる」


(……神のご加護?)


 ルイナは内心で首をかしげた。


 彼らはいつも、ルイナの魔力量について言及する。けれど、それが「賛美」ではなく、「測定」のように聞こえるのは気のせいだろうか。


 ……まるで、何かを確かめるように。


「——では、そろそろお部屋へお戻りください」


「……部屋…?」


「ルイナ様は、お疲れでしょう。朝の儀式のあとは、お部屋でお休みを」


「……別に疲れてないけど」


 思わず、本音が漏れた。


 これまでも「部屋で休むように」と言われることはあった。だが、それはせいぜい形式的な気遣いにすぎなかったはず。


 なのに——最近は、妙に執拗だ。


 まるで、「部屋に戻らせること」が目的みたいに。


「……あの、ちょっと外に出てもいいですか?」


「外?」


 神官長の顔色が変わった。


 その反応の速さに、逆にルイナの方が驚いた。


「えっと、神殿の外に。行ったことないから、ちょっと街の様子を見てみたくて」


「——下界に、ですか?」


 その瞬間、場の空気が凍りついた。


 神官たちがざわめく。ルイナの周りにいた神官数人が、わずかに眉をひそめる。


(え、なんでそんな反応……?)


 ルイナは戸惑う。


 別に、ほんの少し外に出たいと言っただけだ。それなのに、この拒絶の空気は——。


 神官長は、一拍の沈黙の後、きっぱりと告げた。


「聖女様が下界に降りるなど、もってのほか」


「……!?」


「聖女様は神に仕える存在。俗世に触れるべきではありません」


「ちょ、ちょっと待って……そんな大げさな話じゃなくて、ただ街を歩くだけ……」


「許可できません」


 完全な拒絶。


 ルイナは言葉を失う。


(え、なに……どうして、こんなに頑ななの?)


 たしかに、これまでも自由に外へ出られたわけじゃない。神殿の周りなら散歩してもよかったのに、ここまで「完全に外出禁止」みたいな空気はなかった。


 それに——。


(下界って……)


 その呼び方も、妙に引っかかった。


 まるで、神殿が「神聖で特別な場所」で、街の方が「格下」だと言わんばかりの言葉。


 ルイナは、ゆっくりと息を吐き出す。


(……なんか、おかしくない?)


 違和感が、はっきりとした疑問へと変わる。


 そして、それは 「不満」 へと繋がっていく——。



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