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2-7 神殿の違和感・後編



 魔力量測定が終わった後、ルイナはそっと肩を回しながら訓練場へと向かった。


 ここ最近は、ルークと魔法の訓練を行うのが日課になっている。

 最初は「神殿の指示で教える者」として接していた彼も、今ではどこか変わってきた気がする。


「ねえ、ルーク。やっぱりみんな、私の魔力量ばっかり気にしてるよね?」


 ルイナがぽつりと呟くと、ルークは黙って歩きながら、低く答えた。


「それは当然だろう。だが……お前の魔法に異常性は感じない」


「当然…?ルークは普通に話してくれるのに……」


 ルークが少し眉を寄せる。


「どういう意味だ」

 

 ルークは、神官たちのように過剰な敬意を払うことも、妙に距離を取ることもない。ただ、淡々と彼女を見て、適切に評価する。


「……みんな、まるで私が“危険な存在”みたいに見るんだもん」


 ふっと小さなため息をついたその時——。


「ねぇねぇ、ルーク?」


スオリスがふわりと飛び、ルークの肩に乗った。


 ルークの足が、僅かに止まる。


「なーんか、立ち位置とか視線とか、すっごーく自然にルイナを守る感じになってるんだけど?」


 スオリスがにこにこしながら、くすくすと笑う。


「……何の話だ」


 ルークの表情がわずかに硬くなる。


 それを見て、スオリスは「わかってないな〜」という顔で、


「ふふん♪ ルーク、無自覚だねぇ」


「………」


 ルークは、何も言わずにスオリスを指で摘み、無言でルイナの肩に乗せた。



「ええー、雑〜! でも、図星っぽい?」


 ルークはそれには応えず、そのまま訓練場の入り口をくぐる。


 ルイナは、ふと心の中に温かいものを感じながら、微笑んだ。



「ルーク、ありがとう」


「……礼を言うことじゃない」


「でも、……ありがと」


 ルークは少し視線を逸らし、小さく息をついた。


「……お前が気にしすぎなだけだ」


 ルイナは、その言葉が「自分を安心させるため」だと気づく。


 ——そして、この日。


 ルークの中に生まれた“小さな変化”は、ゆっくりと広がり始めていた。



 



 


「ルイナ様」


 訓練の最中、神官の一人が近づいてきた。


「あなたの成長は非常に興味深い。通常、この短期間で魔法をこれほどまでに習得することはありえません」


「えっ?」


「神殿としても、あなたの力をより引き出す訓練を提案したいのです」


 ルイナは戸惑った。


 確かに、ここに来てから魔法の習得は順調に進んでいる。

 けれど、それはスオリスやルークのサポートがあってこそ——自分だけの力ではない。


「……でも、今のままでも十分じゃ」


「いえ、さらに強くなれば、より神の御意に適う力を得ることができるはずです」


 その言葉に、ルイナの心がざわめく。


 その時——。


「必要ない」


 低く響いた声に、ルイナは驚いて振り返った。


 ルークだった。

 腕を組み、静かに神官を見つめている。


「なぜです?」


「これ以上鍛える必要がどこにある?」


 ルークの声には、どこか鋭さが混じっていた。


「彼女はすでに制御できている。強化するのではなく、維持を考えるべきだ」


 神官は僅かに目を見開き、ルイナは驚いたようにルークを見つめた。


(ルークが……神殿の意向を否定した?)


 神殿に忠実だった彼が、はっきりと反論した。



「ルーク……」


「今日の訓練はこれで終わりだ。先に戻っていてくれ、すぐに追いつく」


 ルークはそれだけ告げると、そのまま視線を逸らした。


 



 


 訓練が終わった後、ルイナは一人で神殿の廊下を歩いていた。


(ルーク……さっきの、何だったんだろう)


 彼が神官に反論したこと。

 それが何を意味するのか、ルイナはまだ理解できずにいた。


 ——その時。


「おや、ルイナ様」


 不意に、背後から声がかかった。


「少し、お時間をいただけますか?」


 ルイナは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


 グレゴールだった。

 穏やかに微笑んでいるが、その目は妙に鋭い。


「……何か?」


「少し、魔力量測定の件でお話をと思いまして」


 そう言いながら、グレゴールの視線がルイナの胸元に落ちる。


 ——ペンダント。


「そのペンダント……どこで手に入れたのです?」


 その瞬間、ペンダントの奥でスオリスがピクリと震えた。


「ちょっ!? コイツ、怪しすぎる!!」


 ルイナは反射的にペンダントを手で隠す。


「えっと……家族の形見です」


「……本当に?」


 グレゴールの目が、ペンダントに絡みつく。


(なんなの……この感じ)


 息が詰まるような、強烈な圧を感じた。


 ——その時。


「ルイナ、行くぞ」


 少し息を切らした低い声とともに、ルイナの腕がぐっと引かれた。


 ルークだった。


 彼は無言でルイナの手を引き、そのまま歩き出す。


 グレゴールが、薄く笑った。


「……やれやれ、冷たいですね」


 ルイナは、僅かに戸惑いながら、ルークを見上げた。


「助けてくれたの?」


「……余計な詮索は避けろ」


 素っ気ない声。


 けれど、腕を引く手は、妙に温かかった。


 



 


 神殿の図書室。


 ミアは、静かに古い記録をめくっていた。


 ページをめくる手が、わずかに震える。


(……やはり、ルイナ様の魔力は、コレと関係しているのでは……)


 もしそうなら——。


 神殿が彼女を手放すはずがない。


 ミアはそっと本を閉じ、静かに呟いた。


(これは……ルイナ様には、まだ伝えられませんね)


 



 


 こうして、ルイナは知らぬままに、

 神殿の深い計画の渦へと巻き込まれていく——。


 

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