表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/51

2-7 神殿の違和感・前半

白く磨かれた回廊に、静かな足音が響く。朝の神殿は穏やかで、澄み渡る青空が高く広がっていた。淡く差し込む陽光が床の石畳に反射し、どこまでも清浄な空気を作り出している。


 ——けれど。


「……なんか変な感じがする」


 ルイナは足を止め、ゆるく眉を寄せた。


「わかる〜。なんかみんなの目が、じとーってしてるよね!」


 スオリスが、ルイナの肩にちょこんと座りながら、小さく手を広げるようにして囁く。小さな羽が微かに揺れ、その存在感を示していた。


 違和感——それは、ここ数日ずっと感じていたものだった。


 神殿での暮らしは、決して悪くはない。食事も寝床も整っており、魔法の訓練を受ける環境としては申し分ないはずだ。それなのに、何かが引っかかる。


 神官たちは皆、礼儀正しく振る舞う。

 けれど、その中に——本物の敬意とは少し違う、奇妙な距離感を感じることがあった。


 例えば、すれ違うたびに交わされる微妙な視線。

 会話の端々に、彼女の「魔力量」を意識しているような言葉。

 そして、どこかぎこちない態度。


 それは、親しみとも畏れとも違う、まるで「探る」ようなものだった。


「……まるで観察されてるみたい」


 ルイナの呟きに、スオリスの小さな羽がぴくりと震えた。


「うーん……ルイナは気づいてないかもだけど、たまーに、ちょっとだけ嫌な感じの目線も混ざってるよ」


「嫌な感じ?」


「うん。なんか、じっと見て、何か考えてるっていうか……」


 スオリスは、小さく腕を組んで考え込む。


「獲物を狙うみたいな?」


 その言葉に、ルイナの胸がざわめいた。


(獲物……?)


 その時——。


「ルイナ様、神殿での生活には慣れましたか?」


 ふと、後ろから声がかかった。振り返ると、ミアが静かに微笑んでいた。


 相変わらず、穏やかで上品な佇まい。けれど、その視線の奥にある感情は読めない。


「うん、でも……ちょっとだけ違和感があるような」


「違和感、ですか?」


「なんだろう……みんな、妙に私の魔力量ばっかり気にしてる気がして」


 ルイナが考え込むと、ミアは静かに目を伏せた。


「……それは、ルイナ様が特別だからでしょう」


 優しく微笑む声。


その言葉が、やけに引っかかる。


ルイナが言葉を続けようとしたその時、遠くから鐘の音が響いた。


「……時間ですね。では、また後ほど」


ミアは優雅に一礼し、静かに去っていく。

彼女の背を見送りながら、ルイナは胸の奥に、言い知れぬ不安を覚えた。


「特別だから」


果たして、それは喜ぶべきことなのか、それとも——



 



 


 白い魔法陣の中央に立ち、ルイナはゆっくりと息を吸った。


 今日は定期的な魔力量測定の日。周囲には神官たちが並び、静かに見守っている。

 この数週間で何度か経験しているが、今日はいつも以上に、張り詰めた空気を感じた。


「ルイナ様、魔力を循環させてください」


 神官長の静かな声が響く。


 ルイナは頷き、ゆっくりと魔力を解放した。


 ——瞬間。


 神殿の結界が微かに震えた。


 青白い魔力が溢れ出し、波紋のように広がる。その場にいた神官たちは、誰もが息を呑んだ。


「……っ」


 スオリスが、ルイナの肩で小さく震える。


「ん? なんか変な感じ……」


「えっ?」


「……わかんない。でも、すっごく懐かしい気がするの」


 ルイナの目が、大きく見開かれた。


「懐かしい?」


 スオリスが「懐かしい」と感じるもの——それは、彼女と出会って以来、初めてのことだった。


「……でも、思い出せない……」


 スオリスは、こめかみに指を当て、小さく唸る。


「何か、すごーく大事なことな気がするのに……」


 ルイナの胸がざわめいた。


(スオリスが思い出せない何か……それって、一体……?)


 一方、神官長とグレゴールは、ルイナの魔力量を示す水晶の数値を見つめ、密かに囁き合っていた。


「……これほどの魔力量を持ちながら、なぜ制御できる?」


「通常なら、暴走していてもおかしくない」


 その会話を、ルイナはかすかに聞き取った。


(……やっぱり、何かがおかしい)


 けれど、それが何なのかまでは、まだ分からない。


 そして——ルイナは気づかない。


 神官長とグレゴールが交わした言葉の奥に、密かな「計画」が隠されていることに。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ