Калинка カリンカ
立てつづけな側近暗殺に、
いたるところの反乱暴動。
炎の背後で踊る魔女の影。
誰をも信じられぬ男は、
クレムリンの奥に閉じ込もった。
脳髄に巣喰い蝕んでいく狂気、
心臓を切り刻む恐怖に憑かれ。
☁ ☁ ☁
闇色な暗い月夜のさなか、
厳重な警備が喰い破られ、
兵はすべて殺し尽された。
☁ ☁ ☂
ふと男は目覚めた、
余りにも静寂な故。
遠い通路からの足音に、
硬い軍靴の重さはない。
それは小さな子供が、
濡れそぼった裸足で、
歩いているような…。
扉がノックされる。
拳銃を手にし誰何。
応答なく解錠の音。
掛金が外れて落る。
ゆっくりと扉が…。
拳銃を乱射する。
乱射、乱射する。
硝煙の匂いが、
闇に立ち込め、
驟雨のやんだ後に似た、
弾の空になった銃の音。
ゆっくりとゆっくりと…、
扉が…開いてゆく…………。
☁ ☂ ☽
いつのまに月を覆う叢雲が消えたのか、
窓に懸かるカーテンから月光が差込む。
皓々たる月灯璃の中、
緩やかに波打ちつつ、
頸筋に懸かり更に踝まで、
艷やかに嫋やかに流れ落る、
黒髪だけを身に纏って佇む、
月虹色の瞳をした裸の少女。
髪の分かれめから覗く、
少し痩せてみえる肩先。
薄い微かな乳房、
淡く色づく乳首。
雪花膏のように白い肌、
舐めらかな白堊の太腿。
内腿の薄い皮膚に、
透けて視える静脈。
白い小鳩のように幻めいて、
華奢な跣の蹠で押印される、
黒ずみべたつく血塗れの蹤。
扉向こうに蟠る、
暗闇から漂よう、
鉄錆じみた血溜まりの臭い、
垂流した糞尿と臓物の臭い。
にもかかわらず……、
それらに入り混じる、
清らかなようでありながら、
何処となく淫靡な甘い匂い。
その自我を溶解させ、
官能の罠に絡め取る、
嗅ぐ者を眩惑と酩酊に陥れる酒のよう、
毒を含んだ美しい花の蜜のような匂い。
香りの杯
少女の股間
溢れ落ち
甘い匂い
入り混じって……、
鉄錆めいた 血
汚物
……の臭い、
此方まで漂って
にもかかわらず
花の匂い
肉の花
拳銃が手から滑り落ちる。
肉 ……果肉
柘榴…………血の味
聖体礼儀
血と肉
生命の水
……火酒
蹌踉めきながら少女へと……。
吸血鬼 ………水妖
金銀花 花蜜
……赤い実
禁断の木の実