38話 道標の妖精
ヘイリオスから追手が迫っているとはつゆ知らず。わたしとアサツキさんは魔女の街『ビャクヤ』へ向かって順調に街道を進んでいた。
「そういえばビャクヤにも妖精さんはいるのかしら」
「いるいる、ヘイリオスよりたくさんいるよ」
「えっそうなんですか!」
てっきり国の中で1番栄えてそうな王都のほうが、妖精さんがたくさんいそうなイメージだったんだけど。
「サンベルク王国自体は妖精が少ない国なんだけど、その中でもビャクヤは妖精が比較的多くいる街なのさ」
アサツキさんの話によると、妖精さんはなんというか、規律が緩めの自由なところを好むので、あまり魔物討伐に積極的でない国や、自由信仰の中立国なんかに多くいるらしい。
逆に今いるサンベルク王国や、アサツキさんの出身である『ウラハイル聖国』みたいな、『打倒魔王! 女神様しか信仰しません!』みたいな国は窮屈に感じるのか、あまり出没しないとのことだった。
「ビャクヤはサンベルク王国の端で、すぐ隣は妖精が多いレイキュリー中立国だからね、それに魔女も多くて、比較的自由というか、適当な街だから妖精も多くなっているのかもしれない」
「良いですねえ。わたしもそういう所のほうが好きかも」
魔王との戦いとかよりも、みんな仲良く過ごせる世界が理想よね。宗教がいくつもあると難しいのかもしれないけど。
「……あら? 分かれ道ですね」
しばらく街道を進んだところで行き先が二手に分かれる。
「右か左か……さてどっちだったかな」
「あっ道案内の看板が立ってますよアサツキさん」
二股に別れる所に矢印の形をした木の標識を発見する。
日本だとあまり見かけないから、ちょっとファンタジー感あってテンション上がっちゃうわね。
「あー……ベルベルちゃん、あの道標看板はあまりアテにしないほうがいいよ」
「えっどうしてですか?」
「看板の上を見てごらん」
「うえ……? あっ! なにか小さいのがいる!」
よく見ると、看板の上にティンカーベルのような羽の生えた小さな女の子がちょこんと座っていた。
「あれって、妖精さんですか?」
「“パスキー”っていう、いたずら好きな妖精さ。特に旅の人間を迷わせるのが好きなんだよ」
「ええ……」
『まあ妖精自体いたずら好きが多いんだけどね』と言いながらアサツキさんが看板に近づく。
「やあ妖精さん。ビャクヤに行きたいんだけど、どっちの道へ進めばいいかな?」
「うえうえしたしたひだりみぎひだりみぎびーえー」
「……ベルベルちゃん、なんて言ったか分かる?」
「分かりますけど、全然道案内じゃなかったです」
……ゲームのコマンド?
「やっぱダメだ。ここは妖精とお話しできるベルベルちゃん、君に任せた」
「あっはい、任されました。えーっと、妖精の名前……パスキーだっけ。はじめまして、わたしはベルベルっていうの。ねえパスキーちゃん、わたしたち、ビャクヤって街に行きたいんだけど……」
「ゆーはどうしてびゃくやーに?」
「え? えっとね、ヘイリオスからちょっと離れたくて、それでこっちのアサツキさんのツテがあるビャクヤにご一緒してて」
「へーりおす、よーせいいた?」
「そうね、少ないけど、何人か会ったわ。お散歩が好きな妖精さんと、オムライスが好きな妖精さんと、糸車が好きな座敷わらしちゃんと、あとこの子」
「……宜しく」
デュラちゃんが久しぶりに口を開く。
妖精同士が出会う所って初めて見たかも……どんな感じなのかしら。
「ひさしぶりじゃん~げんきしてた~?」
「……初対面」
「うまうまうまうま~」
うーん、会話があまりかみ合ってない気がする……
「ベルベル、よーせいにろうどうをしいている?」
「労働を強いて……違う違う! デュラちゃんとはお友達よ?」
「おともだちかかくではたらかせてる?」
「そ、そんなんじゃないわよ」
パスキーちゃんにある意味鋭い指摘を受ける。
実際お給金払ってるわけじゃないから完全に否定できないわ……
「……需要と供給」
「じゅようときょうきゅ~か~。じゃあいいか」
「それで納得なんだ」
なんかよく分からないけどデュラちゃんの説明で納得したらしい。
「びゃくやはね~こっちだよ」
パスキーちゃんが左の道を指している道標の上に座る。
「妖精の言う事だから完全には信用できないけど……」
「2択だし、パスキーちゃんを信じて左に行きましょう!」
こうしてわたしたちは左の街道を進むことにしたのであった。
……。
…………。
数刻後。
「おいそこのちっこい妖精! この転写画の女がここを通らなかったか?」
「ちょっとヒカルくん、そんな荒っぽい……」
「みぎいった」
「何言ってるかは分かんねえが、右の看板に座ったってことはこっちだな! よし行くぞお前ら!」
「ほ、本当に大丈夫かなあ」
…………。
「あわれだねぇ~」




