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9話



「……ああ」


どうやら、バイトから帰ってベッドに身を投げた瞬間寝落ちしてしまったようだ。いつのまにか朝になっている。アズールは……帰ったのかな。


「おはよう」


「なんで居るんだよ」


「私も一緒に寝たからな。音廻の寝顔、可愛かったよ」


「殺すぞ」


「おお、怖い怖い。はは、こうしていると夫婦みたいで楽しいな。もしかしたら、気づいていないだけでそういう噂がたっているのかもな」


「私はホモじゃないんだけど」


「世界中のホモを敵に回す発言だなそれは」


「私は普通だし」


「本当に?」


「……アズールが悪いんだ。アズールがカッコよすぎるのが悪いんだ」


「音廻は、誰かから告白されたらすぐに承認する人なのか?」


「流石に性格は見るけど」


「……私は、ダメか? やっぱり男性が良いのか?」


「どうしたのさ」


「私と彼氏、どっちを取る?」


「………貴方との関わりを束縛するようなDV彼氏は却下。だったら貴方に隣にいて欲しい」


「それが聞けて安心したよ」


「どういたしまして」


「……近くに居る限り、私のこと捨てないでくれよ?」


「まるでいつか消えるような言い草だね。そんなことないから大丈夫だよ。それに、それは私の台詞。私が近くに居る間は、私のことを捨てないでね」


「もちろんだ、任せてくれ」


彼氏、か。今となってはもうどうでもいいや。きっと、恋より友情を優先する人間なんだろうね私って。


「そうだ、音廻」


「何?」


「私、今日用事があるから出かけるよ」


「そうなんだ。気をつけてね」


「………音廻もね」


アズールが部屋から出ていった。しばらくして部屋に響く音が私の呼吸と鼓動の音だけになる。


「………暇だなぁ」


アズールが居ないと退屈で仕方がない身体になってしまった。こういう時はどうするべきか。


「………散歩にでも行こうかな」





結果から言おう、詰んだ。


「………雨降るだなんて聞いてないんだけど」


傘は持ってきていない、洗濯物は干したまんま。帰るのは怠い、帰っても怠い、チェックメイトなう。


「せっかく気分転換に散歩しにきたっていうのにさ………ん」


遠くに見える橋。その上で一匹の小さな虎が居た。蒼い体色をしているけれど、赤い猫を見たことがある私にとってはもうそれくらいでは驚くことはなかった。


「…………」


虎が足を動かす度に、木の板がわかりやすく変形する。もし、割れて落ちたら大変だな……いやでも虎って泳げたよね? と、いろいろ考えていると……



「………あ」



思考が止まった。しかし刹那の間で理解する。子虎が河に落ちたのだ。浮かび上がる気配が一切ない。私は慌てていた、たかが子虎が河に落ちたくらいで慌てていたんだ。普通なら、その光景を見ても見て見ぬフリをするはずだ。だって、虎の命なんて人間が知ったことじゃないから。仮に死んだって、それはそういう運命だった、それだけで終わってしまう。



『音廻は、臆病者なんかじゃないよ。私が保証する』



私は、雨の影響で荒れた河の中へ身を投げた。小さな虎を助けるために。




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